クレームとカスハラの違い
Aさんの事例を読み、あなたはどう思っただろうか?
「クレーム対応の仕方が悪いよね。外に連れ出さなくてもよかったはず。誠意を尽くさないからお客さんも怒る。もっとうまく対応できれば大事にはならなかったはず」
もしそんなふうに思った方は、「そもそもクレームとはなにか」を知る必要があるだろう。クレームとは本来「問題解決を求めている場合の要求・主張」のことをいう[田中ほか 2014]。今回の場合、マスクの着用を店側が頼んだことに対し、男性が要求した内容は問題解決には至らない、簡単に言えば「言いがかり」だ。その後の男性の態度や言動を見ても、このクレームの悪質性が窺(うかが)い知れる。
「はじめに」で「悪質なクレーム」を、「商品やサービス、性能、補償などに関し、消費者が不満足を表明したもののうち、その消費者が必要以上に攻撃的であったり、感情的な言動をとったりしたもの、または悪意が感じられる過度な金品や謝罪を求める行為」と定義した。
店長とAさんにマスク着用を求められた男性客は、その対応に不満を漏らした。「知らなかったのでマスクを持っていない」と言えば済むところを、喚き散らして暴れるといった常軌を逸する行動に出たのだ。高圧的な態度で従業員を攻撃し、過度な謝罪とサービスを求める行為は、相手を傷つける加害=カスハラにあたる。
では、こうした悪質なクレームを容認すれば、店の商品やサービス、性能や補償が果たして向上するだろうか? むしろ悪化の一途をたどることは容易に想像がつく。理不尽な要求に対応していては、業務効率も下がり、周りの客からも不審に思われるだろう。そして、悪質なクレームを受ける従業員の心身の被害を疎(おろそ)かにしていては、次々に辞めていってしまうだろう。悪質なクレームを容認していると、客の質も店の質も下がるばかりの悪循環が待ち受けているのだ。