「熱中症になったらどうする」コロナ禍にマスク未着用を指摘された客が激怒! カスハラとクレームの違い

クレームとカスハラの違い

Aさんの事例を読み、あなたはどう思っただろうか?

「クレーム対応の仕方が悪いよね。外に連れ出さなくてもよかったはず。誠意を尽くさないからお客さんも怒る。もっとうまく対応できれば大事にはならなかったはず」

もしそんなふうに思った方は、「そもそもクレームとはなにか」を知る必要があるだろう。クレームとは本来「問題解決を求めている場合の要求・主張」のことをいう[田中ほか 2014]。今回の場合、マスクの着用を店側が頼んだことに対し、男性が要求した内容は問題解決には至らない、簡単に言えば「言いがかり」だ。その後の男性の態度や言動を見ても、このクレームの悪質性が窺(うかが)い知れる。

「はじめに」で「悪質なクレーム」を、「商品やサービス、性能、補償などに関し、消費者が不満足を表明したもののうち、その消費者が必要以上に攻撃的であったり、感情的な言動をとったりしたもの、または悪意が感じられる過度な金品や謝罪を求める行為」と定義した。

店長とAさんにマスク着用を求められた男性客は、その対応に不満を漏らした。「知らなかったのでマスクを持っていない」と言えば済むところを、喚き散らして暴れるといった常軌を逸する行動に出たのだ。高圧的な態度で従業員を攻撃し、過度な謝罪とサービスを求める行為は、相手を傷つける加害=カスハラにあたる。

では、こうした悪質なクレームを容認すれば、店の商品やサービス、性能や補償が果たして向上するだろうか? むしろ悪化の一途をたどることは容易に想像がつく。理不尽な要求に対応していては、業務効率も下がり、周りの客からも不審に思われるだろう。そして、悪質なクレームを受ける従業員の心身の被害を疎(おろそ)かにしていては、次々に辞めていってしまうだろう。悪質なクレームを容認していると、客の質も店の質も下がるばかりの悪循環が待ち受けているのだ。

 

桐生正幸

東洋大学社会学部長、社会心理学科教授。山形県生まれ。文教大学人間科学部人間科学科心理学専修。博士(学術) 。山形県警察の科学捜査研究所 (科捜研)で犯罪者プロファイリングに携わる。その後、関西国際大学教授、同大防犯・防災研究所長を経て、現職。日本犯罪心理学会常任理事。日本心理学会代議員。日本カスタマーハラスメント対応協会理事。著書に『悪いヤツらは何を考えているのか ゼロからわかる犯罪心理学入門』(SBビジュアル新書)など。

※本記事は桐生正幸著の書籍『カスハラの犯罪心理学』(集英社インターナショナル)から一部抜粋・編集しました。
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