柴門ふみさん「80代も20代も恋する気持ちは同じ。恋っていくつになっても訪れるもの」三世代の女性の"恋"を描く《インタビュー》

恋愛経験のなかった80代が恋したら......?

──ここからは、新連載についてお伺いします。「毎日が発見ネット」で連載される『女三代恋物語』は、タイトルどおりノブ子、道子、はるかという三世代の女性が登場する物語です。この作品はどのようにして生まれたのでしょうか。

柴門:ある時、60代で夫を亡くした80代のおばあさんに出会ったんです。その方は、夫を亡くし「私は生まれてから一度も恋をしたことがなかった。死ぬまでに絶対恋をするんだ」と宣言したそう。しかも、その宣言どおり私が知り合った時には恋人がいたんですね。「このおばあさん、いつか描きたいな」と、アイデアを温めていました

──確かに、昔は見合い結婚が多かったので、恋愛を経験していない方もいそうですね。

柴門:ほとんどが見合い結婚でしたよね。むしろ恋愛結婚のほうが珍しかったと思います。私の母は90代ですが、韓流ドラマばっかり観てうっとりしてるんですよ。きっと「一度はこういう恋をしたかった」と思っているんじゃないでしょうか。そんな母の姿も、ノブ子さんに重なりました。

そこから、読者が感情移入しやすい中高年女性の目を通して、女三代の話を描こうと考えていきました。

柴門ふみさん「80代も20代も恋する気持ちは同じ。恋っていくつになっても訪れるもの」三世代の女性の"恋"を描く《インタビュー》 『いつも犬が居た―女三代恋物語―』より
『いつも犬が居た―女三代恋物語―』より

──80代のノブ子、50代後半の道子、20代のハルカは、価値観も恋愛観も異なる世代ですよね。

柴門:ただ、強烈な個性は世代を超えますね。80代で恋をしているおばあさんは、やっぱり世代を超えた個性をお持ちでしたし、孫娘と恋バナを楽しんでいるそう。ノブ子も、エネルギッシュでかわいい人ですよね。パワーがあって行動力のある人は、やっぱり魅力的です。

──結婚を考える世代だと、純粋な恋をしづらいようにも思います。その点、若い世代と高齢者は結婚を意識せずに恋愛できるので、共感し合えるのかもしれませんね。

柴門:そうですね。しかも、恋っていくつになっても訪れるもの。結婚は「この人と結婚しよう」と思えばできますが、恋は違います。「この人と恋に落ちよう」と思ってできるものではないじゃないですか。そこは大きな違いだと思います。

──50代後半の道子は、どんな存在でしょうか。

柴門:50代後半って、普通に恋愛して結婚して主婦になった世代だと思うんです。男女雇用機会均等法の一期生が、今年60歳で定年を迎える頃。それよりも少しだけ下の世代なんですね。

その頃って、世の中が恋愛に浮かれていた時期でもありました。ちょうど『東京ラブストーリー』のドラマを観ている世代でもあります(笑)。道子の夫・マナブさんなんて、トレンディドラマに毒されて歯の浮くような口説き文句を言っていた世代。女性と付き合うなら、ドラマのセリフみたいな甘い言葉を言うのが当たり前だったんですね。それより下の世代、いまで言う就職氷河期の45歳くらいになると、ドラマみたいなセリフで女性を口説く男性には出会ったことがないそうです。

ですから、道子さんはごく普通の男性であるマナブさんから、ドラマみたいな言葉を言われてちゃんと恋愛してきた世代。結婚して子どもを育て、主婦のまま何事もなく人生が終わろうとしているけれど、実は幸せだったと思うんですね。

──一番下の世代のハルカさんには、まだ秘密があるそうです。

柴門:そうですね。秘密はありながらも、ノブ子とは恋バナで気が合っています。世代を問わず、恋する気持ちは重なり合う。そう発見するマンガなんです。

 

柴門ふみ(サイモン フミ)

漫画家。1957年生まれ。1979年、『クモ男フンばる!』で、漫画家デビュー。『P.S. 元気です、俊平』で、『第7回講談社漫画賞』一般部門を受賞。『家族の食卓』『あすなろ白書』で、『第37回小学館漫画賞』青年一般部門を受賞。さまざまな世代の恋愛をテーマにした『東京ラブストーリー』『恋する母たち』など多くのヒット作品を手掛け、実写化作品も多数。現在は、10年前にやってきたウェルシュ・コーギーのリンコちゃんと楽しく暮らす。「いつも犬が居た」シリーズは、『いつも犬が居たー老漫画家と老犬の毎日ー』(紙&WEBマガジン『毎日が発見』)、『いつも犬が居たー夫のヒミツー』(ダ・ヴィンチWeb)を同時連載中。

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