柴門ふみさん「80代も20代も恋する気持ちは同じ。恋っていくつになっても訪れるもの」三世代の女性の"恋"を描く《インタビュー》

柴門ふみさん「80代も20代も恋する気持ちは同じ。恋っていくつになっても訪れるもの」三世代の女性の"恋"を描く《インタビュー》 柴門ふみさん

『東京ラブストーリー』『あすなろ白書』など、恋愛マンガの巨匠として知られる柴門ふみさんが、3媒体同時に新連載をスタートさせます。共通テーマは「いつも犬が居た」。「毎日が発見ネット」では三世代の女性たちの恋愛を描いた『女三代恋物語』が、「ダ・ヴィンチWeb」ではセレブ女性の秘密をめぐる『夫のヒミツ』が、紙&WEBマガジン『毎日が発見』では愛犬リンコとの日々を綴ったコミックエッセイ『老漫画家と老犬の毎日』がそれぞれ展開されます。

そこで、連載開始を記念して柴門さんにインタビューを実施。愛犬に対する思い、「毎日が発見ネット」および紙&WEBマガジン『毎日が発見』での連載作品について話を伺いました。

取材・文=野本由起 撮影=後藤利江


コーギーの子犬に一目惚れ! いまでは大事な家族に

──6月から「いつも犬が居た」という共通テーマで、3媒体にそれぞれ異なる作品を連載されます。この企画は、どのようにして立ち上がったのでしょうか。

柴門ふみさん(以下、柴門):もともとは、『毎日が発見』編集部からいただいた企画なんです。読者と年代が近い私に、同年代の女性向けのマンガを描いてほしいというご依頼でした。

そこから、どういうテーマなら描けるか企画を考えた時に、ふと思い浮かんだのが犬のこと。犬はもう10年近く飼っていますし、以前から「いつか犬について描きたい」となんとなく考えていたんですね。3媒体で同時連載というお話でしたが、よくよく聞くとひとつひとつのページ数は短め。それならできるかなと思いました。

犬を描くのはとても難しいので、最初は不安もありました。でも、描いてみたら楽しくて。しばらく男性読者向けのマンガを連載していたので、女性向けの作品を描くのもワクワクしますね。だからいま、すごく楽しいんです。

──現在は愛犬と暮らしていますが、もともと犬はお好きだったのでしょうか。

柴門:そうですね。最初に飼ったのは小学生の頃。ですが、まだ子犬のうちに、しかも私がリードを握っている時に、逃げてしまったんです。それが心の傷になっていました。小学校高学年くらいの頃にはリスを飼ったのですが、それもケージを掃除しようと扉を開けた途端に逃げられて。その後飼った雑種犬は、ほとんど母が世話をしていたので、いま飼っているコーギーのリンコは、人生で初めて向き合うペットなんです。

──リンコちゃんを家にお迎えすることになった経緯を教えてください。

柴門:13、4年前、いまの家に引っ越したのですが、大きな公園が近くにあって、子どもたちも独立したので、犬を飼おうと決めていたんですね。夫(マンガ家・弘兼憲史さん)とも、よくペットショップに立ち寄っていました。でも、犬を飼うのは小学生以来ですし、二度もペットを逃がしているので自信がなくて。引っ越してから2年くらいは、ちゃんと責任を持って育てられるだろうかと迷っていました。

犬種についても悩みましたね。周りの人からも情報を仕入れて、大型犬は無理だなと判断して。かといって、あまりに小さすぎる犬も夜中に帰ってきて踏んづけちゃいそうで心配で(笑)。そこで、中型犬のビーグルかコーギーにしようと思いました。

そんな中、たまたま生後2カ月のコーギーとめぐり会ったんです。コーギーの子犬って本当にかわいいんですよ。もう、ぬいぐるみみたい。夫とも「かわいいね」なんて話していたら、「抱っこしますか?」って。夫が「気に入ったらクリスマスプレゼントにするよ」なんて言うものだから、その場で家族としてお迎えすることに(笑)。あっという間でしたね。

柴門ふみさん「80代も20代も恋する気持ちは同じ。恋っていくつになっても訪れるもの」三世代の女性の"恋"を描く《インタビュー》 柴門ふみさんと愛犬のリンコちゃん
柴門ふみさんと愛犬のリンコちゃん

──犬を本格的にお世話するのは初めてですから、最初は大変だったのでは?

柴門:そうなんです。知り合いにドッグトレーナーを紹介していただき、「最初は抱っこしちゃいけない」「ケージに布をかけて徐々に環境に慣らしていく」など、すべて教えてもらいました。

──弘兼先生も一緒に学んだのでしょうか。

柴門:いえいえ、うちの夫は気の向くままにかわいがっていました(笑)。昭和の男だから「最初に主従関係を決めなきゃいけない。ガツンとやらなきゃ」なんて言うんです。でも、「私は家来が欲しいわけじゃなくて、家族が欲しいんです」と言って、ガツンとやることはしませんでした。

──その後、リンコちゃんは柴門先生にとってどんな存在になりましたか?

柴門:子犬の頃は、まさに子ども。子育てをしていた頃を思い出しました。とにかく健康状態をよく見て、「今日はこれだけ食べてこれだけ排泄した」と確認して。危険がないよう家の中を片づけて、叱るところは叱る。不思議なもので、我が家に引き取った途端、排泄物も汚く感じないんですよね。それも、自分の子どものおむつを替える時と同じ。もう本当に、人間の子育てと同じなんです。

それに、私の子どもがまだ小さかった頃は、仕事をしていても天気が荒れれば「学校に傘を持っていかなきゃ」となりましたし、外出中に地震が起きれば「大丈夫かな」と心配になりました。リンコが留守番している時も、雷が鳴れば「怖がっていないかな」、私の帰宅が遅くなれば「寂しがっていないかな」と気になってしまいます。子どもに対する感情とまったく一緒なんですよね。犬の成長スピードは人間の7倍なので、追いつき追い越されていまでは私と同年代ですけれど。

──生活リズムも変わりましたか?

柴門:規則正しくなりました。以前は、机に座ってマンガを描く日々でしたから、運動不足で体力も落ちていました。踏切を渡ろうと思ったら遮断機が降りてきて、走り切れずに「死ぬ!」と思ったこともあったほど(笑)。ですが、いまでは雨が降ろうと雪が降ろうと、1日2回散歩に行きます。体力はつきました。

──約10年一緒に暮らし、犬はどういう生き物だと思うようになりましたか?

柴門:言葉を喋らないこと以外は、人間と同じです。ため息はつくし、いびきはかくし、寝言は言うし(笑)。気配も人間と一緒ですね。「見てるな」という視線を感じることもよくあります。ストレスの種になることもあれば、ストレスを癒してくれる存在でもありますね。

 

柴門ふみ(サイモン フミ)

漫画家。1957年生まれ。1979年、『クモ男フンばる!』で、漫画家デビュー。『P.S. 元気です、俊平』で、『第7回講談社漫画賞』一般部門を受賞。『家族の食卓』『あすなろ白書』で、『第37回小学館漫画賞』青年一般部門を受賞。さまざまな世代の恋愛をテーマにした『東京ラブストーリー』『恋する母たち』など多くのヒット作品を手掛け、実写化作品も多数。現在は、10年前にやってきたウェルシュ・コーギーのリンコちゃんと楽しく暮らす。「いつも犬が居た」シリーズは、『いつも犬が居たー老漫画家と老犬の毎日ー』(紙&WEBマガジン『毎日が発見』)、『いつも犬が居たー夫のヒミツー』(ダ・ヴィンチWeb)を同時連載中。

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