DVやハラスメント、性犯罪に娘のいじめ...「女性が巻き込まれやすいトラブル」は数多くあります。でも、そうした悩みを解決したくても、「誰かに相談したら逆に悪化するかも...」とどうしていいかわからない人も多いと言います。そこで、弁護士の上谷さくらさんと岸本学さんの著書『おとめ六法』(KADOKAWA)より、女性の味方になってくれる「法律」についてご紹介。ぜひ、ご自身やお子さんがトラブルの参考にしてください。
インターネットは「公共の場」
インターネットやSNSのおかげで、自分の意見を発信して、多くの人と意見を共有したり、議論をしたりして、知識を高めたり、人間関係を広げることが容易にできるようになりました。
さらに、社会的な問題などに対して、みんなが意見を表明することで、それらの改善を促すことも起こるようになりました。
しかしそうした力を持つことには、責任が伴います。「発言・発信の自由を持つ」ということは、同時に「限度を超えてむやみに使わない、つまり濫用してはいけない」という義務を負うということでもあります。
SNSによって人々が得た力は、使い方によっては、誰かを傷つけるものにもなります。
匿名で簡単に、誰かを中傷することも、嫌がらせをすることもできてしまいます。
そのようにSNSを誰かを傷つける目的で使用した人の身元が特定され、警察の捜査対象とされたり、民事で損害賠償を請求されたりする事案も少なからず発生しています。
インターネット上に投稿された内容は、多くの場合、世界中の誰もが見られる状態に置かれます。
検索すれば、誰もが簡単にそれを発見することもできます。
インターネット上の投稿は、それが公開されているかぎり、「公共の場」での発言です。
対面での発言と同じくらいの慎重さが必要です。
【事例】
SNSの匿名アカウントを使って、誰かを「ディス」る。
【ANSWER】
「ディスる」内容によっては、侮辱罪や名誉毀損罪などの犯罪に該当する可能性があります。匿名アカウントでも、相手が「発信者情報の開示請求」を行うことで、ディスった者の氏名・住所を特定できる場合があります。その結果、民事で慰謝料請求をされたり、警察に摘発されるケースも実際に起きています。
【事例】
コンビニでのバイト中、暇な時間に、揚げ物を作るフライヤーを使って、消しゴムや噛んだガムなどいろんなものを天ぷらにして遊んでいた。おもしろかったので、その様子を動画にしてSNSに投稿したところ、「炎上」してバイト先の会社に抗議・批判が殺到した。
【ANSWER】
店舗などが特定されると、店舗が営業できなくなるなど、バイト先に多大な被害を与え、賠償請求をされるおそれがあります。また偽計業務妨害罪(刑法第233条)により刑事罰を受ける場合もあります。
解説:悪ふざけでバイト先が閉店、倒産
飲食店や小売店のアルバイトスタッフが、商品や店舗の設備などを使って悪ふざけを行い、その様子を収めた不適切動画がSNSで拡散され、「炎上」するという事件がたびたび起きています。
いわゆる「バイトテロ」といわれる行為です。
その内容は不衛生な行為であることも多く、その結果、現場となった店舗が閉鎖・閉店に追い込まれたり、運営企業が倒産したりするなどの多大な被害が生じています。
このような悪ふざけが、ただのいたずらで済まされてはならないでしょう。
不適切動画を投稿した人は、店舗設備のクリーニング代や交換費用、閉鎖や閉店の期間に見込まれた売上金額など、巨額の損害賠償請求を受ける可能性があります。
また、事案によっては「偽計業務妨害罪」などで警察に立件されるケースもあります。
偽計業務妨害罪とは、人を欺いたり、人の信頼を裏切ったりする行為(錯誤)で他人の業務を妨害する罪です。
実際に、飲食店アルバイトの少年ら投稿した不適切動画が「炎上」した事案では、店舗の衛生管理について誤解を招くような動画を公開して業務を妨害したことから、「偽計業務妨害」の容疑で書類送検されています。
【事例】
社外秘のスタンプの押された資料を渡された。その書類は公表前の新商品の企画書だった。おもしろそうだったので、思わずSNSに投稿したくなったがやめた。もしこの情報をSNSに投稿していたら、どうなっていたのだろう?
【ANSWER】
資料に記載されていた情報は、会社の「営業秘密」に該当するものと考えられます。もし、会社に損害を与えるなどの目的で資料を公開すれば、営業秘密侵害罪に該当し、処罰を受ける可能性があります。
解説:会社にダメージを与えるつもりがあったか?
自分が利益を得るため、またはその営業秘密の所有者に損害を与えるために、営業秘密を外部に公開することなどは、不正競争防止法に違反する犯罪として処罰されます(営業秘密侵害罪)。
営業秘密とは、会社の事業に関する情報で、以下にあてはまるものです。
● 秘密として社内で管理されている(秘密管理性)
● 事業に有益な情報である(有用性)
● 一般には知られていない(非公知性)
事例のように「社外秘のスタンプが押された(秘密管理性)」「新商品に関する情報(有用性)」で「公表前の(非公知性)」のものは、営業秘密である可能性が高いといえます。
もっとも、営業秘密侵害罪にあたるには、不正によって利益を得たり、会社にダメージを与えたりすることが目的である必要があります。
そのような目的がなければ不正競争防止法に違反するとはいえません。
しかし、新商品の情報が公表前にリークされる事態になれば、それだけでも騒ぎになりかねません。
宣伝戦略や施策にも多大な影響が生じるでしょう。
それゆえ、偽計業務妨害罪による処罰を受ける可能性は高いと考えられます。
【あなたを守る法律】
プロバイダ責任制限法 第1条 趣旨
この法律は、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害があった場合について、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限および発信者情報の開示を請求する権利につき定めるものとする。
ほかにも書籍では、恋愛・くらし・しごと・結婚など6つの章だてで、女性に起こりうる様々なトラブルに「どう法的に対処すべきか」が解説されていますので、興味がある方はチェックしてみてくださいね。
六法やDV防止法、ストーカー規制法...。女性の一生に寄り添う大切な法律が、6章にわたって解説されています。