毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「本土復帰後の沖縄、どう描く?」について。あなたはどのように観ましたか?
※本記事にはネタバレが含まれています。
【前回】【ちむどんどん】都合のよさにツッコミ続出!? 朝ドラの歴史上、多数派で実に"朝ドラらしい"展開へ
本土復帰前の沖縄本島・やんばる地域で生まれ育ったヒロインと家族の50年間の歩みを描くNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』第5週。
舞台は、沖縄本土復帰の1972年。
前週ラストに、東京で料理人になる宣言をしたヒロイン・比嘉暢子(黒島結菜)だが、そこに大きな障害が立ちはだかる。
ダメニーニ・賢秀(竜星涼)が一獲千金の投資話に騙されてしまう。
その資金の1000ドルは母・優子(仲間由紀恵)が親戚の賢吉(石丸謙二郎)に借金を重ねてまで用意したもので、比嘉家はますます困窮状態に。
賢吉も比嘉家についにブチ切れ、暢子の東京行きには「女のくせに馬鹿なことを言うな!」、賢秀には「お前が行け!」「頭がないなら体を使うしかない」と怒鳴り散らす。
賢吉の怒りはもっともだが、感情的になったときについ「女のくせに」「頭がないなら」という致命的な暴言を吐くのは、親族ならではの距離感のせいか。
今、NHKBSで放送中の『芋たこなんきん』(2006年下半期放送/※個人的に歴代朝ドラベスト3作品)でも、ヒロイン・町子(藤本直美)が後の夫となる健次郎(國村隼)と談笑中、「女のくせに小説家」と嘲笑されたことで激怒し、かつて滅びたことを例に「恐竜!」と罵り、大喧嘩に発展するシーンが登場する。
『ちむどんどん』も『芋たこなんきん』も昭和40年代が舞台だが、朝ドラで幾度となく繰り返されてきたヒロイン激怒の引き金「女のくせに」は、2022年ではさすがに視聴者に説明不要の問題発言として定着しただろうか(それでもいまだに言う人がいるのも現実...)。
借金苦の比嘉家では、暢子の東京行きがなくなり、責任を感じた賢秀が「部(倍)にして返す!」と置手紙して家を去る。
その前夜、賢秀は親以外の大人にずっとバカにされ、嘘つきだと言われてきたことで、初めて親以外の大人に褒められて嬉しかった、大人を見返してやりたいと思っていたことを寝床にいる暢子に告げる。
豚のアベベとアババの世話を一生懸命にし、「東京で流行っている」と聞いて使い方もわからず「ガチョーン」を繰り返していた頃の明るいアホな賢秀が懐かしい。
親の深い愛情さえあれば、自己肯定感が育つと言われがちだが、父を失った後、ダメダメながらも「長男」という重荷だけが賢秀を苦しめてきたのか。
そんな中、暢子を東京に行かせてあげたいと思う優子が共同売店の給料を前借りしたり、良子も教員の給料を前借したりと奔走するが、そこに賢秀から60万円の入った封筒が。
なんとプロボクサーになり、衝撃のKOデビューをしたという賞金を送ってきたのだ。
どうしようもない不良がボクサーになって一発逆転するケースは、沖縄生まれの元WBA世界ライトフライ級王者・渡嘉敷勝男を筆頭に、ときどきあること。
ただし、デビュー戦で借金を全てチャラにできるほどの賞金がもらえるはずがないことにはSNSで多数ツッコミが出ていた。
と同時に、優子や良子が家族思いで優しいことは確かだが、貧乏暮らしに慣れ過ぎて「借金」のハードルが非常に低くなっていることも、不安の種ではある。
しかし、それもまた比嘉家らしい。
無事上京が決まった暢子だが、住むところも仕事も決まっていなさそう。
事情はそれぞれ違えど、『おかえりモネ』の百音(清原果耶)や『カムカムエヴリバディ』のるい(深津絵里)と同じ。
そして、歌子(上白石萌歌)の音楽の才能を見抜き、追いかけまわしていた下地先生(片桐はいり)も視聴者たちに惜しまれつつ、「異動」により退場(?)。
暢子の上京はちょうど沖縄本土復帰の当日となったが、本土復帰の様子がわかるのは、数秒の資料映像と、バスに貼られた「祝 本土復帰」の文字のみ。
実際には沖縄の交通ルールが変わり、車両が左側通行になることで、信号機や標識、道路標示等を全て左側通行用に改めるなどの大混乱があり、さらに沖縄の人々の生活にも様々な影響を及ぼすのだが、そうした変化は次週で多少なりとも描かれるのだろうか。
東京編に移り、「本土復帰後の沖縄」が置いてけぼりにされないことを願いたい。
文/田幸和歌子