【ブギウギ】2つの才能が出会い、衝突し、共鳴する...ヒロインと羽鳥(草彅剛)のセッションにワクワクが止まらない!

毎日の生活にドキドキやわくわく、そしてホロリなど様々な感情を届けてくれるNHK連続テレビ小説(通称朝ドラ)。毎日が発見ネットではエンタメライターの田幸和歌子さんに、楽しみ方や豆知識を語っていただく連載をお届けしています。今週は「違和感の正体」について。あなたはどのように観ましたか?

※本記事にはネタバレが含まれています。

【前回】ヒロインの「出生の秘密」が明らかに...未だ回収されていない「違和感」は杞憂に終わるか

【ブギウギ】2つの才能が出会い、衝突し、共鳴する...ヒロインと羽鳥(草彅剛)のセッションにワクワクが止まらない! pixta_69604650_M.jpg

足立紳・櫻井剛脚本×趣里主演のNHK連続テレビ小説(通称「朝ドラ」)『ブギウギ』の第6週「バドジズってなんや?」が放送された。

「バドジズってなんや?」の疑問の答えが木曜放送分で明確に示された今週。特にヒロイン・福来スズ子(趣里)と作曲家・羽鳥善一(草彅剛)の掛け合いは理屈を軽く飛び越え、バドジズしまくっていた。

演出家・松永大星(新納慎也)に見いだされ、東京に新設される梅丸楽劇団に入団することになったスズ子と秋山(伊原六花)は、小村チズ(ふせえり)が営む下宿で生活を始める。

スズ子と秋山はバンマスの一井(陰山泰)、ダンサーの中山(小栗基裕)、羽鳥と対面。羽鳥が憧れの「別れのブルース」の作曲者だと聞き、興奮するスズ子に、羽鳥は何か歌ってみるよう要求。その歌声を聴いた羽鳥は、レッスン初日に曲を書き直してくる。スズ子の歌声にインスピレーションが湧いたのだ。

しかし、天才のひらめきはここからが大変。スズ子の歌に満足できない羽鳥は、歌の出だしだけで500回以上繰り返し歌わせ、具体的な指示もなく、「ジャズだよ」と言うばかり。「笑顔の鬼」は怒る鬼よりずっと怖い。

羽鳥のイメージが頭の中にあるのなら、お手本として歌ってくれればいいのに......と言う声もSNSでは出ていたが、羽鳥がやろうとしているのは全く新しい音楽なのだから、何かの模倣であってはならないのだ。一方、秋山も男性ダンサーたちとの練習で体力の違いを感じていた。

そして、今週最もバドジズした木曜放送分。

スズ子と羽鳥の厳しいレッスンが続く中、スズ子はどうしたら良いかわからず、行き詰っていた。そんなスズ子の相談を受けた松永は、スズ子の歌の魅力について「歌う喜びに満ちている」と語り、スズ子が「今は大嫌いになりそうです、歌も羽鳥先生も」と本音を漏らすと、「それでいいんじゃないか」「その気持ちで歌えば」とアドバイス。そこで、スズ子は覚悟を決め、羽鳥の自宅を訪ねる。

羽鳥は息子のカツオ(高田幸季)と共に鼻歌交じりで銭湯から戻ったところで、スズ子はレッスンを懇願。妻・麻里(市川実和子)が招き入れてくれ、レッスンを受けることになる。

いきなり「3、2、1......」と始める羽鳥だが、スズ子は何やら難しい顔。松永からのアドバイスを胸に、怒り顔から歌い始めると、瞬時に羽鳥の顔から笑みが消え、驚きの後、にやりとして、笑顔で頷く。

それはUSK(梅丸少女歌劇団)の厳しい稽古で磨かれた、整った美しい歌声とは異なる、腹の底から感情があふれ出し、血が全身を駆け巡り、解き放たれ、暴れまくるようなエネルギーに満ちた荒々しくも楽しい歌だった。趣里の変化を表す歌い分けは見事である。

「どうしちゃったの? なんかちょっとだけジャズっぽくなったじゃない」。羽鳥の目が輝き、スズ子は言う。

「なんやわからんけど、先生殺したるって気持ちで。殺しまへんけど」。その言葉を聞いた羽鳥は、驚きもせず「そうか。じゃあもっと殺す気持ちで」とすぐさま稽古を再開。才能が出会い、衝突し、共鳴し、新たなモノが生まれる瞬間のワクワク感がピークに達する。

レッスンを終えたスズ子は、麻里から、羽鳥が頑固で、音楽以外は何もできない、ネクタイも締められない人なのだと聞かされる。しかし、自由そのものに見える羽鳥もまた、上京してやりたい音楽ができず、塞ぎ込んでいたのだという。そんな中、ようやくやりたいことができる、良い歌い手さんに会えたと語ったのが、スズ子のことだったのだ。

音楽で共鳴し合った2人の心の距離は一気に近づき、ビシビシ鍛えてくれと言うスズ子に、羽鳥は「ビシビシなんて嫌ですよ。僕は楽しくないのは嫌いだから」「福来くんにはもっともっともっともっとホットになってもらいたい」と言う。欲張りですねと笑うスズ子に、羽鳥は「楽しくなるための欲なら僕はとても深いですよ」と稽古場に行くことを提案、スズ子がそれをかわすと、2人は歌いながら歩きだす。

このあたりの掛け合いは、アドリブではないかと思うほど。もちろん台本はあるはずだが、即興演奏を中心とするジャズのセッションを見ているようだった。

いよいよ本番当日。フルコーラスでスター・福来スズ子の誕生を見せてくれたのはワクワクしたが、ちょっとだけ惜しまれたのは口パクが少々目立ったこと。

あれだけ激しく踊りながら歌うのだから、生歌では無理があるのだろうし、バンド演奏の都合もあるだろう。しかし、ピアノが置かれた和室で激しく歌い踊り、バドジズする姿を見た後では、本番のお行儀の良さが少し気になった。息が切れ、音が乱れても、荒々しく魂から湧き出るバドジズが見たかったのに......と欲張りになってしまうのも、スズ子のパフォーマンスがあまりに魅力的だからだ。

思いがけず超高速で駆け上がったスターへの道、その傍らで体調の悪い母・ツヤ(水川あさみ)の姿も描かれる。不穏な空気が漂う直前、輝きがあふれ出す木曜放送分は何度でも繰り返し観たくなる出色の回だった。

文/田幸和歌子
 

田幸和歌子(たこう・わかこ)
1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経て、フリーランスのライターに。ドラマコラムをweb媒体などで執筆するほか、週刊誌や月刊誌、夕刊紙などで医療、芸能、教育関係の取材や著名人インタビューなどを行う。Yahoo!のエンタメ公式コメンテーター。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など。

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