「親の介護の苦労」は必ずしも報われない? 住田裕子弁護士が解説する「相続の落とし穴」/シニア六法(22)

相続、介護、オレオレ詐欺...。年を重ねるにつれ、多くのトラブルに巻き込まれるリスクがありますよね。そこで、住田裕子弁護士の著書『シニア六法』(KADOKAWA)より、トラブルや犯罪に巻き込まれないために「シニア世代が知っておくべき法律」をご紹介。私たちの親を守るため、そして私たちの将来のための知識として、ぜひご一読ください。

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相続の落とし穴「貢献を正当に評価するー寄与分」


【事例】
長男夫婦は結婚以来、両親と同居していました。長男の妻は昔ながらの「嫁」として、夫の両親のそれぞれの最期まで、介護・看取りと十数年尽くしました。まさに「療養看護」をしてきたのです。それらの苦労は相続の際に、十分に報われるのでしょうか?


【この条文】
民法 第904条の2 (寄与分)

第1項 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供、または財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持、または増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始のときにおいて有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。

第2項 前項の協議が調わないとき、または協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法および程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。


財産形成や増加に大きな貢献

寄与分とは、一部の相続人が、亡くなった人に対して財産上の貢献をして、遺産の維持形成、または増加の役割を果たしたといえるような場合に、その貢献を金額に見積もったものを指します。

典型的なものは、無償での家業手伝いや資金援助などです。

寄与分をいくらと評価するかは、相続人間の協議で決めるのが原則とされていますが、決まらない場合は家庭裁判所の調停・審判に進むことになります。

実際には、他の相続人から特別受益の存在を指摘された相続人が、その指摘に事実上対抗するために「それなら言わせてもらうけれど......」と寄与分の主張を切り出すことがよくみられます。

介護による寄与分

実際によく問題となるのは、親の介護をした子どもが、介護による寄与分を主張するケースです。

民法第904条の2第1項には「療養看護」という例が挙げられているので、主張する側としては当然に認められるだろうと思いがちなのですが、家庭裁判所の調停や審判では、「親を扶養すること自体は扶養義務の範囲内」ということで、あまり考慮されないのです。

すなわち、扶養義務の範囲内であれば、無償で行うべきものとの考え方です。

そこで、寄与分として認められるためには「それを超える程度」であることが必要です。

例えば「仕事を辞めてまで親の介護に専念した」とか、「通常は有料でヘルパーに来てもらってするようなことを無償でしてあげていたので、その分、親の財産の流出を防ぐことができた」などと言えるようなケースです。

長年にわたり大変な苦労をして介護をした子どもとそうでない子どもがいる場合には、とても不公平に感じますが、その点については遺言や生命保険金の受け取りなどによって配慮しておくことがよさそうです。

なお、長男の妻は親族であり、「特別寄与者」に該当します。


ほかにも書籍では、認知症や老後資金、介護や熟年離婚など、シニアをめぐるさまざまなトラブルが、6つの章でわかりやすく解説されていますので、興味がある方はチェックしてみてください。

【まとめ読み】『シニア六法』記事リスト

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住田裕子(すみた・ひろこ)
弁護士(第一東京弁護士会)。東京大学法学部卒業。現在、内閣府・総務省・防衛省等の審議会会長等。NPO法人長寿安心会代表理事。

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『シニア六法』

(住田裕子/KADOKAWA)

シニア世代にとって「老・病・死」は身近なものですが、そのうえで健康を維持し、トラブルをなるべく避けて穏やかに過ごしたいと望む方が多いと思います。介護トラブルやオレオレ詐欺に遭ったときの正しい対処法など、「老・病・死」に近づいたときのリスクと対応策が、とっても分かりやすく解説されています。法律を軸にパラパラとめくって、フンフンと頷ける…とっても「ためになる」一冊です!

※この記事は『シニア六法』(住田裕子/KADOKAWA)からの抜粋です。

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