年齢を重ねるにつれて募っていくのが、いつかやってくる"最期"への不安。
高齢の親をどう看取ればいいのか、そして、自分が遺す側になる前にできることは何か...。そんな悩みを解決する"お役立ち終活本"が
『在宅医が伝えたい「幸せな最期」を過ごすために大切な21のこと』(中村明澄/講談社+α文庫)だ。
相続やお墓などと違い、重要なのに避けがちになってしまう"最期"の迎え方。心がザワつき始めた時に開いてほしい1冊だ。
※これはダ・ヴィンチWebの転載記事です
『在宅医が伝えたい「幸せな最期」を過ごすために大切な21のこと』(中村明澄/講談社+α文庫)
著者は千葉県にある、在宅緩和ケア充実診療所「向日葵クリニック」で訪問診療を行う在宅医。これまでに1000人以上の患者を看取ってきた。
本書では、著者が実際に関わった患者のエピソードを交えつつ、暮らし慣れた自宅で幸せな"最期の時間"を過ごすための知識を紹介している。
■幸せな最期を迎える第一歩は「現状を知ること」
人生の終わりが近づくと、「絶対にこの選択がいい」という医療的な正解がなくなってくる。豊富な選択肢に悩み、自分と親という対象や年齢・状況の違いによって、正解と思える答えが違い、戸惑うこともあるだろう。
そんな中で幸せな最期を迎えるには、本人や家族の価値観を考慮しながら、3つの条件を考えてほしいと著者は語る。
・幸せな最期を迎えるための3つの条件
①過ごす場所
②やってもらいたいこと(受けたい医療や介護)
③夢などのやりたいことや、やる時期
これらの条件を考えるには、患者自身が自分の病状や今後を知っておく必要がある。
なぜなら病状の段階が分かっていないと、本意でない選択をしてしまったり、すぐに行動に移せば実行できたはずのチャンスを逃してしまったりと、後悔に繋がりかねないからだ。
実際、著者のクリニックが運営する緩和ケア専門施設「メディカルホームKuKuRu」に入居していた、肺がん末期の里田孝俊さん(仮名・73)は余命を知ったことで、「今」と「これから」について医療者や家族と話し合えた。
そして、希望する医療や葬儀、相続関係など、「最期と死後はこうしたい」という意思を言葉にして、必要な書類とともに一冊のファイルにまとめることもできたという。
こうした話し合いは、「人生会議(ACP)」と呼ばれており、幸せな人生の最終段階を過ごすために役立つ。
死が迫っていることを受け止めるのはもちろん怖く、勇気がいることだが、自分の病状の段階を認識することは納得のいく最期を過ごすための大切な条件になることもあると著者は話す。
"知っておくか、知らないままでいるかについても、残された時間を、最大限幸せに過ごすために自分らしい選択をしてほしいと願っています。"(引用/P37)
著者のこの言葉は、自分や家族が終末期を迎えた時、思い出したい。
■「介護休業制度」を活用して介護者の人生も大切にできる在宅医療を
在宅医療が始まると、家族は目の前のことで精一杯になり、仕事と介護の両立に自信がなくなることもある。
だが、著者は経済的な理由だけでなく、介護者の介護後の人生を大切にするためにも仕事を辞めるのは避けてほしいと訴える。
"自分が直接的に手を出すことだけが介護ではありません。ですから、まずは仕事を続けながら介護を両立できる方法を地域包括支援センターやケアマネジャーと相談しながら検討することから始めてほしいのです。"(引用/P172)
なお、入院などで状況が変わり、まとまった時間が必要になった時には「介護休業」という制度が役立つそう。
介護休業は介護を必要とする家族がいる場合に長期の休みを取得できる、法律で保障された制度だ。
この制度では、要介護状態(2週間以上常に介護を必要とする状態)で介護が必要な家族1人につき、通算93日まで休みを取ることが可能。最大3回まで分割して取得することもできるのだ。
また、雇用保険の被保険者で、一定の要件を満たす方であれば、介護休業期間中に休業開始時賃金月額の67%の介護休業給付金も支給される。
熟考すべきは「いつ」介護休業を取得し、「何を」するかということ。
著者いわく、がんの終末期の家族を見守る場合などは除き、介護休業は基本的には「仕事と介護を両立できる体制を整えるための準備期間」に当てるとよいそう。
デイサービスの見学や地域包括支援センター・ケアマネジャーへの相談、家族で介護の分担を決めるために役立てていきたい。
本書には他にも、在宅医療に関する基礎知識や自宅・病院・施設で過ごすそれぞれのメリット、終末期の家族にかける言葉などが掲載されていて、心強い。
高齢の両親を持つ人はもちろん、自分の今後が気になってくる50代以上の人にも手に取ってほしい書籍だ。
文=古川諭香