定期誌『毎日が発見』で好評連載中の、医師で作家の鎌田實さん「もっともっとおもしろく生きようよ」。今回のテーマは「将来、フレイルにならないために」です。
高齢者の半数はフレイルかフレイル予備軍
「しゃがみこんだら立ち上がれない。立ち上がるときは何かにつかまるか、床に手をつく」(70代女性)
「コロナ前より体力が落ちた気がする。階段の上り下りが大変になった」(50代女性)
これは、11月に「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日系、月~金8時~)に出たときに紹介されたもの。
毎日の生活のなかで、筋力の衰えを実感している人も珍しくありません。
筋肉は、40歳を過ぎると年間1%ずつ減少していきます。
何も対策をとらないでいると、加齢とともに筋力が衰えます。
以前はいすからすっと立ち上がれたのに、手すりにつかまらないと立ち上がれないようになり、さらには人の介助が必要になっていきます。
加齢などで全身の筋肉の量が減少すると、心身の働きが弱くなります。
これが「フレイル」という状態で、要介護状態につながります。
ある調査では、65歳以上の高齢者のフレイルの割合は8・7%。
フレイル予備軍(プレフレイル)は40・8%。
合わせると、高齢者の半数が筋肉量に心配があるということです。
特に女性は、フレイル・プレフレイルの割合が高いので、"筋活"を意識する必要があります。
フレイルに多い症状とは
フレイルかどうかを知る目安として、「指輪っかテスト」(下の写真参照)があります。
この連載でも以前、紹介しました。
「指輪っかテスト」で筋肉量を推測できます。
両手の親指と親指、人差し指と人差し指で輪をつくり、ふくらはぎのいちばん太いところを軽く指で囲みます。
このとき、ふくらはぎに力が入らないようにします。
指輪っかで足を囲めない人やぴったりの人は十分な筋肉量があると推測されます。
しかし、指輪っかに隙間ができた人は、筋活をしないとやがてフレイルになる可能性があります。
番組では、若い女性アナウンサーが「隙間ができた」ということで、「フレイル予備軍の可能性がありますね。タンパク質をしっかりとって筋活が必要です」と話しました。
さらに次のような症状があると、フレイルの可能性が高くなります。
(1)ダイエットをしているわけではないのに、体重が半年で2㎏以上減った。
(2)飲み物でむせることがある。口のフレイルである。
(3)疲れやすくて、外出する回数が減った。
(4)立つときに「ヨイショ」と言うようになった。
(5)前を歩いている人を追い抜けなくなった。
(6)瓶やペットボトルのふたが開けにくくなった。
1つでも該当する人は、フレイル予備軍、全部該当する人はフレイルの可能性があります。
対策は、タンパク質と筋トレ
フレイルを予防するには、何といっても、タンパク質をしっかりとって、運動で筋肉を動かすことです。
つまり、"筋活"です。
タンパク質は、ほとんどの日本人は不足しています。
魚や肉だけでなく、牛乳、チーズ、ヨーグルトなどの乳製品、納豆、高野豆腐などの大豆製品も、意識してとるようにしましょう。
もう一つの運動は、スクワットやランジなど、さまざまな筋トレがあります。
中高年が手軽にできる筋トレを紹介した『60代からの鎌田式ズボラ筋トレ』(エクスナレッジ)は、おかげさまで多くの人に読まれています。
握力の低下を防ぐ運動をしよう
フレイル(虚弱)になる前兆は、握力が減ること。
ペットボトルがなかなか開かないという経験のある人は、要注意です。
コロナ禍で知らない間に、握力の低下がおきている人が多いことがわかりました。
カナダのマクマスター大学の研究によると、握力が5kg低下すると死亡リスクが16%上昇すると言われています。
握力の低下を防ぐ運動として、スタジオでは、グーパー運動とペットボトル運動を紹介しました。
両手を前に出して、グーとパーを30回繰り返します。
グーパー運動。グーとパーをゆっくり30回繰り返します。
ペットボトルを両手に持ち、手首を上下に動かす運動を10回(下の写真参照)。
ペットボトル運動は、手のひらで包まず、指で持つように意識するのがコツです。
もう一つぼくのオススメは、壁立て伏せです。
壁から30cmぐらい離れて立ち、床の上で腕立て伏せをするようなつもりで、壁に向かって腕立て伏せをします。
少しずつ足の位置を壁から離していくと、負荷が強まっていきます。
ある程度できるようになったら、指を立ててこの壁立て伏せをすると、さらに指の力も手の内ない側そくの力も強化され、ペットボトルも瓶詰めも軽々と開けられるようになります。
やれば必ず成果がでる
ぼくは、佐賀に年3回通い、「がんばらない健康長寿実践塾」を開いています。
1000人を超える40 ~80代の人たちが塾生として、健康づくりをしています。
もちろん、健康づくりの大きな柱は"筋活"。
その成果が、塾生一人ひとりの体や脳の機能にも現れ始めています。
2022年は、国民健康保険中央会の健康寿命の発表で、佐賀県の女性が長野県や大分県と同率で全国一位になりました。
健康寿命の測定方法にはいろいろなものがありますが、介護保険で要介護2未満までの期間を算定したものです。
健康意識の高い読者のみなさんは、すでにタンパク質をしっかりとって運動する"筋活"の大切さをご存じでしょう。
筋活のよいところは、実践すれば筋肉が増え、体が変わり、生き方も変わっていくことです。
20年後も30年後も元気でいるために、今日から筋活を始めませんか。
《カマタのこのごろ》
『大人のうきうき健脳ドリル101』(二見書房)が発売されました。楽しい問題、ちょっと頭をひねる問題が掲載されています。楽しみながら、脳を刺激しましょう。たいへん好評で、シリーズ第4巻です。一日一問で101日分収録していますので、全巻なら一年以上あります。ぜひ、チャレンジしてください。