「自分が捨てたと思っていたものに、一巡して戻ってきた気がするんです」原一男監督インタビュー『ニッポン国 VS 泉南石綿村』

a423d7dbf80a3a3b938ed4ccba19d58a836d0d61.jpg「過激な生き方を実践している人を主人公に選び、ドキュメンタリーを作ってきた」という原一男監督。新作映画『ニッポン国VS泉南石綿村』で目を向けたのは大阪・泉南(せんなん)に暮らす普通の人々。それは、監督の人生に新たな転機をもたらしたようです。70歳を過ぎて迎えた、大きな転換点とはーー?

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取材対象は、先生みたいな存在

――監督はドキュメンタリー映画を撮り続けていらっしゃいます(2005年には『またの日の知華』という劇映画も監督)。もともと報道写真家を目指していらしたそうですが、ドキュメンタリーという形になったのは? 

原 性に合うんじゃないですかね。ドラマだとシナリオを作ってラストまで書いてから撮るでしょう。でも、ドキュメンタリーは今、目先の疑問があって、その疑問を解くために誰かに会って、自分の身を投げ出してやってみるというのが基本なので。それで、何かわかってきたら、また次の課題が見えてくるから、それに取り組むと。そういうことを何年間か繰り返して、1本の映画になっていく。生き方を探るって言いましたけれど、そういう風に探りながら、ひとつの答えを見つけていくという作業の仕方がいちばん自分に合っているんだと思います。

 

――これは他の映画にも感じられるのですが、映画の中に監督の質問する声が入っている時、その聴き方がとても丁寧ですね。謙虚に対象の方に向かい合われている印象を受けます。

原 謙虚というよりも、自分に自信が持てないでしょう。本当にどうしようもないコンプレックスの塊みたいなものが出発点なので、自分を鍛えてほしいみたいな思いが、いつも強いんですよ。

 

――取材対象が先生みたいな感じなんですか。

原 そうです。だから、その人にカメラを向けることによって、「お前もっとしっかりせんと。そんなんで撮れるんかい!」と相手から叱咤激励してほしいんですよね。どこか、そういう気持ちが強いんです。


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運命的な巡り合わせを感じるんです


――それでいうと、今回の『ニッポン国VS泉南石綿村』は「先生」として、普通の人たちに焦点を当てたわけですよね。

原 そうなんです。20代の時に「普通の人は撮らない、表現者を撮る」と思い決めたんです。自分と家族の幸せのために生きる人のことを生活者というと。それに対して表現者とは、戦争で国を追われた人とか、圧倒的にたくさんいる不幸な状況の人の幸せのために、自分の生き方を賭ける人。だから、出発点で、自分と家族の幸せのための生き方を、自分の中で否定したんですよね。だけど、今回『ニッポン国~』を作ってみて、自分が否定して捨てたと思っていたものに、何か一巡して戻ってきた気がするんです。

 

――なんだか運命的ですね。

原 そうなんです。今回の主人公たちの中には、仕事がなくて日本に出稼ぎに来た人など、泉南に辿り着いてアスベストの仕事をしていた人たちもいるでしょう。アスベストという仕事は、多くの人はつきたがらない仕事だったんです。ギャラが少しいいんですよね。そして技術がいらない。だから、いろいろなところから仕事を求めて流れ着いた人たちがやる仕事だったんですよ。そこで、待てよと自分を省みたら、僕も小学校3年生まで炭鉱で育ったんです。炭鉱って潰れるでしょう。それで、どうやって生きていくかと考えた時に、世界を駆け巡って面白い生き方がしたいと思った。それでポンと東京に出て、報道写真家になりたいと思っているうちに、うちの彼女(長年組んでいるプロデューサーの小林佐智子さん)と出会って映画を撮るようになった。今ぐるっと一巡して、自分の過去を振り返った時に、泉南の人たちと同じじゃないかと思ったんです。

 

――不思議な巡り合わせですね。

原 自分でも運命的だと思っているんです。自分が切り捨ててきたと思っているものを、切り捨てたままだとよくないなと。そこをどう表現するのかを考えないといけないんじゃないか。先程もお話しましたけど、過激な生き方をしている人たちにカメラを向けるという、これまでやってきた映画の路線は、いまの時代にはもう成り立たないわけだから。そこをどう探っていくのかが今の課題です。


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次の記事「最近のドキュメンタリーに思うのは、どんなことですか?原一男監督インタビュー『ニッポン国VS泉南石綿村』(3)」はこちら。

取材・文/多賀谷浩子 

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原 一男(はら・かずお)さん

1945年、山口県宇部市生まれ。東京綜合写真専門学校中退後、養護学校の介助職員を務めながら、障害児の世界にのめり込み、写真展「ばかにすンな」を開催。その後、長年組むことになるプロデューサーの小林佐智子と72年に疾走プロダクションを設立。同年、障害者と健常者の"関係性の変革"をテーマにしたドキュメンタリー映画『さようならCP』で監督デビュー。その後、『極私的エロス・恋歌1974』(74)、『ゆきゆきて、神軍』(87)、『全身小説家』(94)、初の劇映画『またの日の知華』(05)を発表。いずれの作品も国内外で高い評価を受けている。

『ニッポン国VS泉南石綿村』

ユーロスペース他全国順次公開中

監督:原一男 
製作:小林佐智子 
製作・配給:疾走プロダクション 配給協力:太秦 
2017年 日本 215分 ©疾走プロダクション

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