九州・能古島の「花咲かおばあちゃん」が教える「花のある暮らし」

福岡県の博多湾に浮かぶ、のどかな能古島...。この地に、年間通して季節の花が咲き誇る「のこのしまアイランドパーク」があります。花を咲かせるのは久保田睦子さん、81歳。約50年の月日をかけ、いまは亡き旦那さまとこの自然公園を守ってきた「花咲かおばあちゃん」です。秋は、コスモスが海風に揺れながら咲き誇る季節。見渡す限りに広がる花を背に、温かい笑顔で迎えてくれました。

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19歳のとき、
オート三輪に乗って
能古島にお嫁に来たたい。
朝5時から日が暮れるまで働きよったよ

睦子さんが能古島にお嫁に来たのは1958年(昭和33年)、19歳のとき。旦那さま・耕作さんが、島北側の高台にあるこの土地を切り開き、公園造りの準備をスタートさせてから数年目のことでした。

「その時代、恋愛なんてあるもんかい。お見合い結婚です」
もともと親戚同士だったものの、顔さえ見たことがなかった人だったそうです。
「でもね、花畑という大きな夢に向かって走っている人ちゅうことだけは知っとった。私は商売も、人と話をする(接客)のも好きだから、能古島に嫁に行きたいという気持ちもあった。神様はちゃんと見よっちゃったね。縁はそげなもんよ」

九州・能古島の「花咲かおばあちゃん」が教える「花のある暮らし」 1909p055_3.jpg能古島は福岡県に面する博多湾に浮かぶのどかな島。島へは、姪浜渡船場からフェリーに乗って渡ります。

お見合いする前にも、縁を取り持つ不思議な偶然があったといいます。
「主人は、私以外のお嫁さん候補に会おうとしたこともあったと。そのとき自転車に乗っていたんやけど、道が工事中で通れんかった。で、久留米にもいい子がいるという話を思い出して、自転車の向きをくるっと変えて、私のところに来たばい(笑)」
うれしい偶然はなお続き、仲人さんを介したお見合い本番の夜...。
「広い座敷に座って、こんばんはとお尻ば上げてあいさつをしよったとき、どうしたことか、私はぷーっとおならが出たわけたい(笑)。もう恥ずかしくて、下向いて笑いよったら、その笑顔がいいと...」
耕作さんの結婚相手の条件が、笑顔がすてきであること、ただ一つだけだったというのです。

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花嫁姿の初々しい睦子さん。運転席でハンドルを握るのがご主人・耕作さん。

「人は必ず疲れるときがくる。
自然に癒されたいと願うときがくる」
花畑は、お父さんのこの言葉から始まったと

縁あって能古島に嫁いでからは、持ち前の明るさで幾多の苦労を乗り越え、観覧車もジェットコースターもない自然のままの公園造りに汗を流してきました。14年前に最愛の耕作さんは亡くなりましたが、暮らし方を変えようとは思わなかったそう。80代になったいまも自然と向き合う日々です。
「主人は先見の明があったと。経済が発展すれば、都会で働く人は疲れて、癒やしが必要になるっちゅうて、その通りになった。毎日たくさんの人が来てくれる。ありがたかね」

九州・能古島の「花咲かおばあちゃん」が教える「花のある暮らし」 1909p056_1.jpg開園10年目から栽培を始めたコスモスは、思い出の花。この景色を一目見たいと来園者が急増した。

天気のよか日はね、
大地に体を預けて
なんもかんも忘れて
青空天井で寝っ転べばいい

のこのしまアイランドパークは、15haもの自然公園。一面さつまいも畑だったこれだけの広大な土地を花畑に変える道のりは、どれだけの苦労を伴っていたことでしょう。
「いっぺんにではなく、一部でさつまいも作りを続けながら、花を増やしていったんや。初めはツツジ。苗木を植えて、毎年、4月の終わりから5月の初めに、雨が降って土がいい具合になったらその穂を挿し木して。支柱を立てて木をくくって、倒れないように支えて...。全て手作業で、そんなふうやった」
見事な花畑は、やはり一朝一夕でできあがったものではないのですね。

九州・能古島の「花咲かおばあちゃん」が教える「花のある暮らし」 1909p058_1.jpg園内のツツジ花壇。秋には色鮮やかなサルビアやケイトウが群れ咲いていました。

「1964年に、最初の東京オリンピックがあったやろ。実は、その会場にうちで育てたツツジが飾られとったんですよ。これは誰も知らんことやけど、能古島から、苗を貨車3台分積んで東京に送ったんや。1本ずつスコップで掘って、チャンチャムシロ(ござのようなもの)で巻いてな」

貴重な思い出を語る睦子さんは、どことなく誇らしげです。55年も前から、そんなふうに人々を和ませていた能古島の花。いまでは、年間15万人の人が訪れるまでになりました。

「きれいな花を見て腹かく(怒る)人はおらん。花はいいやね」
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"おてんとさんにも、ありがとう"。手ぬぐいを姉さんかぶりにして、空に手を合わせる睦子さん。

九州・能古島の「花咲かおばあちゃん」が教える「花のある暮らし」 1909p058_2.jpg売店に立つ睦子さん。多くのお客様に声をかけられ、おしゃべりに花を咲かせることもしばしば。

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のこのしまアイランドパーク

住所:福岡県福岡市西区能古島 
電話:092-881-2494

料金:大人1200円 
営業時間:9:00~17:30(平日)、9:00~18:30(日・祝日。冬季は平日と同じ) 
定休:なし
アクセス:福岡市営地下鉄空港線 福岡空港駅~姪浜駅(約25分)下車。西鉄バスに乗り換え「姪浜駅北口」~「能古渡船場」(約15分)下車。フェリーに乗り換え、姪浜港~能古港下船。西鉄バスに乗り換え、アイランドパークへ(約13分)
*行き方は複数ありますので、あらかじめご確認ください。
*レストランやバーベキュー場、コテージもあります。島内にはキャンプ村、海水浴場も。

 

久保田睦子(くぼた・むつこ)さん

1938年、福岡県久留米市生まれ。19歳で夫・耕作さんのもとに嫁ぎ、能古島に移住。二人三脚で「のこのしまアイランドパーク」の花畑を造り上げた。いまも毎日花畑に立ち、大勢のお客さまを迎えている。

この記事は『毎日が発見』2019年9月号に掲載の情報です。

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