BS時代劇「大富豪同心(どうしん)」に主演中の歌舞伎俳優、中村隼人さん。階級社会や貧富の格差を飛び越える現代的ヒーロー時代劇で演じる思いをお聞きしました。
剣もダメ、走れない、暗闇が怖いという大富豪の孫の卯之吉が同心(奉行<ぶぎょう>の配下にある下級役人。主に警察業務にあたった)に就職。お金や立場にとらわれない超然とした卯之吉の態度に、なぜか周りが引きつけられ、力になり、数々の事件を解決していく......というこの作品。卯之吉を演じる中村隼人さんの優しい雰囲気が、いざというとき、怖くて気絶してしまうという、ちょっと情けなさもある卯之吉を愛嬌よく見せています。
「"はんなり"という言葉がいちばん、卯之吉のことを表現していると僕は思いました。その漠然としたニュアンスを、どういうふうに表現したらいいのか監督とも相談させていただいて、役を作りました。まずは衣装にこだわりました。町人の姿のときは、卯之吉の遊び人感、柔らかさを出すため普段の羽織よりも長い、長羽織を着ています。
同心のときは侍姿に慣れていない感じを出すために、周りの同心よりもえりの合わせをなくしたり、刀を差す位置を変えています。普段、舞台で刀を差している自分としては"本当にこの人は刀を抜けるのか?"という位置に差しているので、めちゃくちゃ気持ち悪いんです(笑)。
もう一つ意識しているのが、肝心なところで気絶してしまう卯之吉の気絶のレパートリーです。敵方には集中力が研ぎ澄まされている表情に見えるように。でも、卯之吉が弱いことを知っている人には"気絶? ウソでしょ"というふうに見えるように工夫しています。そこは楽しみに見ていただければと思います」
どこかのほほんとしている卯之吉は、敵をバッタバッタと切り倒すという強いヒーローではありません。そこが笑えて、ほのぼのとする、新しい時代劇の主役です。
「卯之吉は、他人の悩みや痛みを自分のことのように感じて、人のためにお金を使って解決する......誰に対しても親身になれるところが、人間味があってかっこいいなと思います。実は、卯之吉には閉ざしてしまった感情の扉があるんです。それを開けるのが自分でも怖い。でも、同心として人と触れ合っていくうちに、その扉も開いていく。周りに助けられて成長していく卯之吉も見てほしいです。
日本人の心の奥底にあるものをくすぐるのが時代劇。また、時代劇をやることで、昔のきものの着方や生活、文化が残っていくと思います。この作品は、立ち回りもありますが、主役が気絶しちゃうなど、ツッコミどころも多くて笑えて泣ける。いままでに見たことのない新しい時代劇になっていると思います」
BS 時代劇「大富豪同心」
金曜20:00~20:43 BSプレミアム
原作:幡 大介『大富豪同心』シリーズ
語り:林家正蔵
出演:中村隼人、新川優愛、池内博之、石井正則、柳下 大、石黒英雄、小沢仁志、村田雄浩、渡辺いっけい、稲森いずみ、竜 雷太ほか
取材・文/落合佑桂里