温泉に入ると元気になる
日本には、さまざまな名湯があります。講演や取材などで各地を訪ねた折、ちょっと足を延ばして、近くの温泉に行くのがとても楽しみです。そう、ぼくは温泉好きなのです。
熊本県天草市の下田温泉の夕日はすばらしい。十数年前、ぼくは、予約のとれない宿として知られる「五足のくつ」で、温泉に入りながら『雪とパイナップル』(集英社)という本の原稿を書いていました。チェルノブイリ原発事故後、白血病になったベラルーシの少年と、彼のために雪のなか、パイナップルを探し歩く日本の看護師の話です。
温泉の楽しみ方は、色々あります。自然のなかに分け入っていく秘湯の楽しみを味わえる温泉のお気に入りは、北海道の八雲町にある上(かみ)の湯温泉「銀婚湯」や、がん患者が集まる秋田県の玉川温泉。また、ぼくが住む長野県、奥蓼科(おくたてしな)の「渋(しぶ)・辰野館(たつのかん)」は「信玄の薬湯」といわれています。
蓼科の「小斉(こさい)の湯」の湯力はすごいです。とにかくぼくは温泉が大好き。 山形県の銀山温泉、熊本県の黒川温泉、「坊ちゃん湯」で知られる四国松山の道後温泉など、古くから文人たちが愛した名湯も、なんとも言えない風情があります。温泉に浸かりながら、先人たちは何を感じていたのか、想像するだけで楽しくなります。
秋田県の乳頭温泉郷・鶴の湯にて。白湯と黒湯を味わえる。
生きる力を与えてくれる
温泉には、それぞれ「効能」がいわれていますが、共通して言えるのは「ほっこり気持ちよくなること」。このとき、体の中ではどんなことが起きているのでしょうか。
まず、ゆったりと湯に浸かることで、自律神経の副交感神経が刺激されます。副交感神経が刺激されると、血管が拡張して血圧は下がり、循環がよくなります。体の緊張がほぐれるため、心もリラックスします。
体が温まると白血球が増え、免疫機能が高まります。白血球のなかには、細胞のがん化を抑制するナチュラルキラー細胞があります。
関節や筋肉を温めると、関節痛がある人も楽になる。痛みが減ると、リハビリテーションが進んだり、何かやってみようという前向きな気持ちにもさせてくれます。
ぼくたちの体は、体の働きを調整する「自律神経系」や、ホルモンの分泌をつかさどる「内分泌系」、外部の異物から身を守る「免疫系」という三つのシステムによって維持されています。
温泉には、これらの三つのシステムを、バランスよく保ってくれる働きがあると考えられています。