フランスの名門マルセイユで不動の地位を確立し、サッカーワールドカップロシア大会での活躍が期待されるサッカー選手、酒井宏樹。しかし彼は「弱気」で「人見知り」という性格の持ち主だった...。
サッカー選手に不向きなその性格をいかにして克服してきたのか? 本書『リセットする力「自然と心が強くなる」考え方46』で、その具体的な方法を探っていきましょう。
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あえて自分を過小評価してみる
日本代表としてのプレッシャーは、ロシア・ワールドカップ出場を決めたいまでもすごく感じます。国を背負っているわけですから、日本代表はやはり特別な場所です。
理想は、プレッシャーに打ち勝つだけの強靭なメンタルを身につけ、どんなに重圧がかかっても押しつぶされずに自分の力を発揮することです。まさに(本田)圭佑(けいすけ)くんがそういうタイプの人間でしょう。彼は多くのプレッシャーに打ち勝つだけではなく、自らが盾となって日本代表を守ってくれています。
僕の性格からすれば、プレッシャーに耐えられる度量があるとは思えませんし、プレッシャーに対する許容量が多い選手ではないので、とてもじゃないですが圭佑くんのような振る舞いはできません。
強靭なメンタルを身につけるために、プレッシャーを正面から受け止めて実際に強くなれる人はそうすればいいと思います。しかし、強くなるどころか、その行為がかえってストレスになり、プレッシャーに押しつぶされパフォーマンスが低下してしまう僕のような人にはかえって逆効果です。
ではなぜ、メンタルの強くない僕が、日本代表のあのプレッシャーのなかでも戦えているのか。僕が心掛けているのは、プレッシャーを「受け止める」のではなく「受け流す」ことです。そのためには、あえて自分を過小評価してもいいとさえ思っています。「自分みたいな選手が国を背負っているなんておこがましい」「勘違いするな! 自分はそんなすごい選手じゃないぞ」と自らに言い聞かせています。すごい選手ではないからミスもするし、失敗するのは当然。「自分はもともとその程度のレベルの選手だ」と、客観的に自分を下げて捉えてみる。そうやって自分に課すハードルを引き下げていくことで気持ちがかなりラクになり、少しずつプレッシャーから解放されていきました。
それはマルセイユでも同じです。この勝利を義務付けられたクラブを応援するサポーターからのプレッシャーは、おそらくリーグ・アン(フランス1部リーグ)でナンバーワンでしょう。そこでも「すごいのはマルセイユというクラブであって、僕自身はすごくないからな~」と言い聞かせ、プレッシャーを受け流すようにしています。
「受け流す」技術に才能はいらない
サッカーの世界では、一発勝負のカップ戦で下部のカテゴリーのチームがトップリーグのチームに勝つ番狂わせが時々起こります。日本の天皇杯でもJ2、J3、JFLのチームが、トップリーグであるJ1のチームを下す大金星が必ず起こります。その要因のひとつに、下部のチームが「失敗しても失うものはない」とプレッシャーから解放された状態でチーム一丸となり試合に臨めることが挙げられます。それほど、メンタルは試合のゆくえを左右する重要な要素なのです。
メンタルの強くない僕が無理やりプレッシャーに強くなろうとして、プレッシャーをまともに受け止めてしまうと、結果的にミスを恐れてプレーが萎縮したり、最悪の場合はパニックになって何もできなくなることだってあり得ます。
ならば、僕は自分へのハードルを引き下げてプレッシャーから解放されることで、プレーの質が向上するほうを選択し、少しでもチームの勝利に貢献したいと考えます。
とはいえ、本当にミスを連発していいわけではないし、試合では勝たなくてはいけない。そこでも「自分はすごくない選手」と過小評価をするからこそ、試合前の準備段階から周到になれる強みがあります。試合前にはしっかり対戦相手のビデオを見て、マッチアップする選手を研究し、プレーの特徴はもちろん、相手がどういうプレーを嫌がるかまで徹底的に分析して試合に臨むようにしています。
プレッシャーに打ち勝つ強靭なメンタルを身につけるには、その人の生まれ持った性格や才能が大きく影響し、かつストレス耐性も必要になります。ですが、プレッシャーを受け流す技術は、誰もが後天的に身につけられると思っています。自分自身を過小評価するということは、ネガティブに聞こえるかもしれませんが、捉え方によってはプレッシャーを受け流す手段を引き出すことができる武器になるのです。
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撮影/鈴木 潤
酒井 宏樹(さかい ひろき)
1990年4月12日、長野県生まれ。千葉県柏市で育つ。柏レイソルU-15、U-18を経て2009年にトップチームへ昇格。2010年にJリーグデビュー。2011年にはチームの主力として活躍し、チームのJ1優勝とともに、ベストイレブン、ベストヤングプレーヤー賞を受賞。同年10月にはA代表に初選出される。日本での活躍が評価され2012年にドイツ・ブンデスリーガのハノーファー96へ完全移籍。主力として活躍した後、2016年6月にフランスの名門オリンピック・マルセイユへ完全移籍。マルセイユ移籍後も確固たる地位を築き、不動の右サイドバックとして活躍。日本代表でも欠かせない存在として、2018年ロシア・ワールドカップでの活躍が期待されている。
『リセットする力「自然と心が強くなる」考え方46』
(酒井 宏樹/KADOKAWA)
「日本人は活躍できない」という前評判を覆し、フランスの名門マルセイユで不動の地位を確立し、世界の注目を集めるサッカー選手となった酒井宏樹。彼はいかにして「自信のなさ」と「メンタルの弱さ」を克服し、心を強くしていったのか。自然と心が強くなる具体的な方法をこれまでのエピソードをとおして初公開!