酒井宏樹「うまくいかないときこそ、自分軸の考え方で乗り切る」/リセットする力

24051807.jpgフランスの名門マルセイユで不動の地位を確立し、サッカーワールドカップロシア大会での活躍が期待されるサッカー選手、酒井宏樹。しかし彼は「弱気」で「人見知り」という性格の持ち主だった...。
サッカー選手に不向きなその性格をいかにして克服してきたのか? 本書『リセットする力「自然と心が強くなる」考え方46』で、その具体的な方法を探っていきましょう。

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環境の変化がもたらした意識改革

僕は2012年7月1日、柏レイソルからドイツ・ブンデスリーガのハノーファー96へ移籍しました。ハノーファー移籍直後にロンドン・オリンピックがあり、初戦のスペイン戦で左足首を負傷しました。続くモロッコ戦、ホンジュラス戦は欠場しましたが、決勝トーナメントのエジプト戦から3位決定戦の韓国戦まで負傷を押して出場したため、ケガの状態が悪化。ハノーファーに合流後もケガの影響で大きく出遅れてしまい、僕は大事な海外初挑戦だというのに、故障を抱えたままスタートすることになったのです。

プレーでアピールすることもできず、試合に出られない僕はすごく不安でした。頭をよぎるのは「このまま日本に帰ることになるのではないか」ということばかりです。ネガティブな要素は、ケガだけではありませんでした。ドイツ語も英語も話せなかった僕はチームメートとのコミュニケーションもままならず、ヨーロッパの1年目は個人的にはまったくうまくいかないシーズンになってしまったのです。

このとき僕は、不安の原因はケガにあると思っていました。
ケガが癒えた2年目以降は出場機会が増えて、見方によっては順調と映っていたかもしれません。しかし、それでもなぜか不安は消えませんでした。スタメンとして試合に出続けていても、同じ右サイドバックの選手が調子を上げてくると気になってしまう。

「ハノーファーが新しい右サイドバックを探している」という噂が立っただけで、「チームは僕で満足していないのだろうか」「新しい選手が来たらまた試合に出られなくなる日々に逆戻りだ」などのネガティブな考えが頭を巡るばかり。結局、ハノーファー時代はこうした不安がクリアになったことはほとんどなかったように思います。

ただ、オリンピック・マルセイユへの移籍が、僕の不安を打ち消してくれました。
 
マルセイユは、フランスリーグ優勝9回を誇り、1992~93シーズンにはUEFA(欧州サッカー連盟)チャンピオンズリーグを制したフランス屈指の名門クラブです。ハノーファーでは、年間のリーグ戦34試合すべてに出場するつもりでいましたが、マルセイユは国内のリーグ戦に加えて、2つの国内カップ戦とヨーロッパのカップ戦を戦うとなれば、年間50~60試合をこなさなければなりません。

そして、その一つひとつの試合で勝利が求められます。マルセイユは勝つことを義務付けられたクラブ。そのプレッシャーは相当なものですが、その状況下に身を置いたことで新しい景色が見えてきたのも事実です。

1シーズンで50~60試合を戦い、勝利を積み重ねていくことは、レギュラーの11選手だけでは絶対に成し遂げることはできません。そのため、マルセイユでは各ポジションに2人以上のレギュラークラスを揃え、コンディションの良い選手が直近の試合に出場しています。"個人"ではなく、"チーム"としてシーズンを戦っていくという概念がそこにはありました。

マルセイユでは1週間に2試合あるため、全選手がその2試合のうちの1試合に出場するつもりで準備を進めています。こうした環境によって、僕自身のコンディション調整の仕方も改善され、少しでも足を傷めていたらすぐにチームに報告して、試合に出られるか出られないかを判断するという臨み方へと変わっていきました。そうなると、もう1人の右サイドバックのプレーやコンディションが良かったとしてもまったく不安にはなりません。

 
「他人軸」でなく「自分軸」で考える

いま思えば、ハノーファー時代の僕は「自分軸」ではなく「他人軸」で物事を考えていたように思います。ライバルのコンディションや、新戦力を獲得するという噂にばかり気を取られていたから、「自分の居場所を失ってはいけない」という思いが強く、ケガをしていても無理にでも試合に出ようとしていました。もちろんケガを抱えたままでは良いプレーはできませんので、よけいに不安は募るばかりです。他人に振り回されて、自分を見失ってしまう。それが不安の原因だったのです

しかし、マルセイユに移籍してからは、「自分が良いプレーをしていれば居場所は絶対にある」という「自分軸」の心の在り方へ変化していきます。

そうなると不思議なもので、もしライバルの調子が良く、僕が試合に出られなかったとしても、それは自分にとってはコンディションを取り戻す絶好のチャンスと素直に受け止められるようになるのです。そこで自分のコンディションを整えて好調をキープできれば、再び出場機会が巡ってくる可能性がありますし、たとえ出場できなくても自分のプレーを継続できていれば、周りのクラブ、周りの国の大勢の人たちが僕を見てくれています。もちろんマルセイユは大好きだけど、「このクラブだけがすべてじゃない、僕を必要としてくれているクラブは他にも必ずある」と捉えれば、あらゆる不安を取り除くことができました。

自分がいまいる場所を大切にすることはもちろん重要ですが、一度周りを見渡してみれば、ここがすべてではないということに気がつくことができると思います。すると、自然と肩の力がフッと抜けるはずです。

不安はネガティブな妄想です。考え方を「自分軸」へと切り替え、その妄想にポジティブな要素を取り入れるだけで、不安は自分のなかから姿を消していきます。

海外挑戦を通じて僕が学んだのは、起こった現実を変えることはできないが、それに対する自分の解釈はいくらでも変えられるということです。

 

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撮影/千葉 格

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酒井 宏樹(さかい ひろき)

1990年4月12日、長野県生まれ。千葉県柏市で育つ。柏レイソルU-15、U-18を経て2009年にトップチームへ昇格。2010年にJリーグデビュー。2011年にはチームの主力として活躍し、チームのJ1優勝とともに、ベストイレブン、ベストヤングプレーヤー賞を受賞。同年10月にはA代表に初選出される。日本での活躍が評価され2012年にドイツ・ブンデスリーガのハノーファー96へ完全移籍。主力として活躍した後、2016年6月にフランスの名門オリンピック・マルセイユへ完全移籍。マルセイユ移籍後も確固たる地位を築き、不動の右サイドバックとして活躍。日本代表でも欠かせない存在として、2018年ロシア・ワールドカップでの活躍が期待されている。

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『リセットする力「自然と心が強くなる」考え方46』

(酒井 宏樹/KADOKAWA)

「日本人は活躍できない」という前評判を覆し、フランスの名門マルセイユで不動の地位を確立し、世界の注目を集めるサッカー選手となった酒井宏樹。彼はいかにして「自信のなさ」と「メンタルの弱さ」を克服し、心を強くしていったのか。自然と心が強くなる具体的な方法をこれまでのエピソードをとおして初公開!

この記事は書籍『リセットする力「自然と心が強くなる」考え方46」』からの抜粋です。
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