なぜ体力測定B判定でも、日本代表として世界を相手に活躍できたのか?
数々の記録をもつ天才サッカー選手・遠藤保仁の「最速で最高の決断」をくだす思考のつくりかたの極意を大公開!
「やることが山積みで全然前に進まない」「頭の中がごちゃごちゃでつらい」などの悩みをかかえているあなた、本書『「一瞬で決断できる」シンプル思考』から考え方のコツを学びましょう。
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いかに相手の裏をかくか
では、どうすれば先読みして、有効なポジショニングをとることができるか。もちろん、長年の経験から自然と体が動く場合もあるが、基本的には「相手をよく見る」ことが原則である。
たとえば、守備のときは、相手の足の動き。どちらの足に体重がかかっているかを見れば、どっちにドリブルをするのか見当がつく。また、蹴るときの軸足がどちらを向いているか、あるいは足の振り方などを観察していれば、どの方向にボールを蹴ろうとしているのかだいたいわかる。これらの要素をヒントに先読みして動き出せば、ボールを奪える可能性は高まるというわけだ。
ちなみに、相手の動きから情報を得るとき、ボールに目線を合わせることはない。どこにボールがあるか何となく認識できれば十分だし、ボールを動かすのはあくまでも足だ。選手が触れることなく、ボールが勝手な方向に動くことはない。サッカーがなかなか上達しない人は、サッカーボールに目線がいっていることが多い。ボールよりも相手の足に注目することで格段に上達するはずだ。
もうひとつ、相手の目線も重要なヒントとなる。
ボールをもっている選手は、基本的に味方の位置を確認してパスを出す。だから、パスを出す方向に自然と視線が向くものだ。それを察知できれば、パスコースを消すことができる。
サッカーでは味方同士でアイコンタクトをして連携を高めることがあるが、僕の場合は敵ともアイコンタクトをするように心がけている。「目は口ほどにものを言う」ということわざがあるように、目線から得られる情報はたくさんあるからだ。
逆をいえば、ボールをもっている選手は、視線からパスコースを見極められないような駆け引きをしている。僕も「ノールックパス」といって、視線の方向とはまったく異なる選手にパスを出すことがよくあるが、それは相手の裏をかくためのテクニックである。ただ、ノールックといっても、パスを出そうとしている選手をまったく見ていないわけではない。どこかの段階で必ず視線を送っているはずだ。だから、相手の目を見ていると、先読みのヒントを得られるのだ。
サッカーも人生も心理戦
試合中も頭を使ってよく考えている選手というのは、次のプレーを予測するのがむずかしい。いかに先読みをするか、逆にいかに先読みをさせないか、そんな駆け引きがフィールド上で行われているのだ。
僕はそういう心理戦を楽しんでいる節がある。相手の裏をかいたり、次のプレーを予測してボールを奪うことができたりすると、「よし、やった!」という気分になる。反対に、敵の選手に同じことをされれば悔しい。
僕はあまり感情を表に出すタイプではないので、クールな印象をもたれるようだが、誰よりも負けず嫌いである。そのため、心理戦で負けるのはとても悔しい。サッカーと同じような心理戦が繰り広げられるトランプゲームにも、ついついヒートアップしてしまうくらいだ。
「たかがトランプぐらいで熱くなるなんて大人げない」と思う人もいるかもしれないが、トランプのような遊びでも心理戦で勝つためのセンスを磨いたり、発想のヒントを得られたりすることがある。
先日、プロのマジックショーを間近で見る機会があった。マジックには必ず、見ている人を欺(あざむ)くしかけがある。たとえば、右手にもっているトランプのカードに観衆の視線を集中させておき、左手で欺くしかけを用意する。相手の目線をずらすという意味では、サッカーにおけるフェイントやノールックパスと同じである。このようなマジックを見ていても、自分の意識ひとつで、心理戦で優位に立つためのヒントを得ることができるのだ。
営業や商談、プレゼン、交渉などの場はいずれも心理戦のはずだ。そのような心理戦で勝つためには、相手の表情、しぐさ、発言、相手の置かれた状況などをつぶさに観察する必要があるだろう。目や視線は僕たちが思う以上に心の中を見事に映し出しているのだ。
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撮影/佐藤 亮
遠藤 保仁(えんどう やすひと)
1980年1月28日、鹿児島県生まれ。鹿児島実業高校卒業後の1998年に横浜フリューゲルスに入団。京都パープルサンガを経て、2001年にガンバ大阪に加入。数々のタイトル獲得に大きく貢献し、2003年から10年連続でJリーグベストイレブンに選出され、現在もガンバ大阪の中心選手として活躍中。また、U-20日本代表をはじめとして、各年代の日本代表に選出され2002年11月に日本代表国際Aマッチデビュー。その後は、日本代表の中心選手として活躍し3度のワールドカップメンバーに選ばれる。「日本代表国際Aマッチ出場数最多記録保持者」「東アジア最多出場記録」「2009年アジア年間最優秀選手」「2014年JリーグMVP」など数多くの記録をもつ。178㎝、AB型。
(遠藤保仁/KADOKAWA)
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