なぜ体力測定B判定でも、日本代表として世界を相手に活躍できたのか?
数々の記録をもつ天才サッカー選手・遠藤保仁の「最速で最高の決断」をくだす思考のつくりかたの極意を大公開!
「やることが山積みで全然前に進まない」「頭の中がごちゃごちゃでつらい」などの悩みをかかえているあなた、本書『「一瞬で決断できる」シンプル思考』から考え方のコツを学びましょう。
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先読みすれば「ダッシュ」しなくてすむ
「遠藤はいつもゆっくりプレーしている」とよく言われる。
試合を見ている人は僕の動きがゆっくりしているように見えるから運動量も少ないと思い込んでいるようだが、南アフリカ・ワールドカップにおけるFIFA(国際サッカー連盟)の公式データによると、僕がチームでいちばん長い距離を走っていた。この事実には、多くの人が驚いたようだ。
僕のプレーがゆっくりしていて、運動量が少ないように見えるのは、ダッシュをする回数が少ないからだと、自己分析している。
もちろん、あえてダッシュをしないようにしている。ダッシュをすればボールをコントロールするのがむずかしくなるからだ。
たとえば、5メートル先の地点に移動するとき、周囲の状況から先読みをして早めに足を踏み出せば、ダッシュをせずに到達できることが多い。ダッシュをしなければボールも扱いやすいから、正確なプレーもできる。先読みをすれば、ダッシュをしなくてもすむし、そんなに動きまわる必要はないのである。
サッカーでは、先読みが正確にできるほど有利な立場を得ることができる。次のプレーを予測して、相手より1秒先に動き出せれば、そのぶんパスを通したり、ボールを奪えたりする可能性は高まる。コンマ何秒でも先にアクションができれば、大きなアドバンテージになるのだ。
たとえば仕事でも先読み力がある人は、ライバルよりも早くアクションを起こし、有利なポジションに立つことができるはずだ。お客様や上司が求めているものをいち早く察知し、それを提供する。そのような先読みができる人が結果を出すのは、サッカーもビジネスの世界も同じだろう。
予測の繰り返しで優位に立つ
サッカーのように体同士が接触するスポーツは、フィジカルが強いほうが有利だとされる。実際、相対的に体が小さい日本人プレーヤーは、フィジカルの強い外国人と真正面からぶつかれば、分(ぶ)が悪くなるのは当然だ。「よーい、ドン」で同時に動き出せば、瞬発力の差で圧倒されるだろう。
しかし、サッカーのうまさはフィジカルだけでは決まらない。もしフィジカルで勝敗が決まるのであれば、僕は日本代表に呼ばれることはなかっただろう。それどころか、日本人選手の中でもフィジカルが強くない僕は、プロ選手として長くプレーすることは不可能だったはずだ。実際、日本代表選手の中でも、僕の体力測定の数値は下から数えたほうが早かった。
それでも世界の舞台で戦えているのは、常に先読みを心がけてきたからだ。
攻撃するときは、「あのスペースに入っていけばパスをうまくもらえて、左サイドの味方の選手のスペースが空いて、スルーパスを通せるのではないか」と2手先、3手先まで先読みして動く。そうすることで、先手を打ち、敵の守備陣を崩すことができる。
守備をするときのポジショニングの良し悪しも、先読みの力で決まるといってもいい。相手チームからカウンターを受けそうなとき、パスが出てきそうな危険なスペースに素早く入れば、攻撃を遅らせることができ、そのあいだに味方の守備を整える時間を稼ぐことができる。また、セカンドボールが落ちてきそうな場所を予測し、ポジショニングをとれば敵よりも早くボールに触ることができる。
実際過去に、「遠藤はセカンドボールを拾う回数が多い」というデータがある。ボールのこぼれる方向を見極めてから動き始めたら、足も速くないし、フィジカルも強くないので分が悪い。だから、相手の体勢や状況を見て、「このへんにこぼれてくるのでは」と常に先読みするようにしている。
たとえば、ボールを競(せ)り合っている選手が後ろに下がりながらヘディングするようだったら、ボールは後方に流れていくか、もしくは頭に当てることができても、勢いがつかずに選手の近くに落ちそうだと予測できる。だとすれば、その選手との距離を前もってつめれば、ボールを奪取できる可能性が高まる。
このように先読み力にすぐれていれば、自分より屈強な相手でも、優位に立つことができるのだ。
先読みをする力はサッカー選手には欠かせない。
サッカー選手の中には、「本能にまかせてプレーをする」というタイプもいる。FW(フォワード)などはDF(ディフェンダー)に囲まれた状況で一瞬をついてシュートを放たなければゴールを奪えないので、FWのようなポジションでは「本能で動く」という能力も必要になる。だが、ほとんどの選手は、本能よりも頭を使って予測することで、厳しい競争を勝ち抜いているのである。
「本能や才能だけでは成功できない」という意味ではビジネスの世界も同じだろう。頭を使って先読みすることで、有利に物事を運ぶことができるのだ。
撮影/佐藤 亮
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遠藤 保仁(えんどう やすひと)
1980年1月28日、鹿児島県生まれ。鹿児島実業高校卒業後の1998年に横浜フリューゲルスに入団。京都パープルサンガを経て、2001年にガンバ大阪に加入。数々のタイトル獲得に大きく貢献し、2003年から10年連続でJリーグベストイレブンに選出され、現在もガンバ大阪の中心選手として活躍中。また、U-20日本代表をはじめとして、各年代の日本代表に選出され2002年11月に日本代表国際Aマッチデビュー。その後は、日本代表の中心選手として活躍し3度のワールドカップメンバーに選ばれる。「日本代表国際Aマッチ出場数最多記録保持者」「東アジア最多出場記録」「2009年アジア年間最優秀選手」「2014年JリーグMVP」など数多くの記録をもつ。178㎝、AB型。
『「一瞬で決断できる」シンプル思考』
(遠藤保仁/KADOKAWA)
「国際Aマッチ出場数最多記録保持者」など、数々の記録をもつ天才サッカー選手・遠藤保仁の「一瞬で決断できる」シンプル思考の原点に迫る! 年齢を重ねるごとに進化する「最速で最高の決断」をくだす思考のつくりかたの極意44。