かつて社会現象を巻き起こした大ヒット漫画『沈黙の艦隊』が実写映画化。主演を務める大沢たかおさんは、モデル時代にはパリコレに出演するなど、常に世界を意識し、挑戦を続けてきました。日本映画の常識を超える大作となった本作では、プロデューサーも兼任して意気込みを見せます。
この記事は月刊誌『毎日が発見』2023年10月号に掲載の情報です。
「誰もやっていないことに挑戦したい」という気持ちは、昔もいまも変わりません。
「世界で戦ってみたい」という思い
――映画化に当たって感じた作品の魅力は?
最初にお話を頂いたときは、実写映画化は難しいと思ったんです。
予算的なことはもちろん、日本ではタブー視されている核や戦争の問題を扱っているので。
仮に実現しても、かなりの問題作になるだろうと。
ただ、いまはいろんなタブーを乗り越えた作品が、配信などさまざまな形で世界中の人々の心を鷲づかみにする時代。
ならば、エンターテインメントとしてそういう部分にアプローチする作品があってもいいのではないかと。
―― グローバルな意識は昔から?
「世界で戦ってみたい」という気持ちは昔からずっと持っていました。
最初のきっかけは、10代で出合ったハリウッド映画です。
僕は東京育ちで、週末になると親からお小遣いをもらって、銀座や上野、池袋、新宿といった繁華街の映画館に通っていたんです。
特に小学生の頃、初めて見た『スター・ウォーズ』のおもしろさには衝撃を受けました。
それ以来、映画を通じてどんどん外国に興味を持つようになっていきました。
モデル時代、「パリコレに出たい」と思ったのも、そういう気持ちからです。
だから、エンターテインメントの分野で韓国に先を越されたときは、涙が出るほど悔しかった。
その点、僕と同じ思いを持つ人たちが集まってできたこの作品は、数少ないそのチャンスになると思うので、とても気合いが入っています。
――今回はプロデューサーとして、防衛省との交渉も行ったとか。
防衛省や海上自衛隊の協力が不可欠だったので、内閣官房など、そうそうたる方々とお話をさせていただきました。
その後、予定になかった岸防衛大臣(当時)との面会が実現したことをきっかけに、いろんなことがスムーズに運ぶようになりました。
――主演俳優として現場で心掛けたことは?
同じ作品に参加する以上、みんな対等なプロなので、それぞれが準備をして、ベストな状態で現場に入ることが絶対的なルール。
ただ、中には経験の浅い若手俳優もいるので、彼らの質問には快く答えてあげるようにしています。
日本には、志はあっても俳優が芝居の基礎やメソッドを学ぶ場がないので、みんなどうしたらいいか分からない。
僕もデビュー当時は苦労したので、自分が学んできたことは彼らに伝えていこうと。
作り手が苦しまないとお客さんは感動しない
――30年のキャリアの中で、俳優の仕事に向き合う気持ちに変化は?
「誰もやっていないことに挑戦したい」という気持ちは、昔もいまも変わりません。
皆さんが「こういう作品が向いている」と思うものより、「これは無理じゃない?」と言われる作品の方が、気持ちが奮い立つんです。
『沈黙の艦隊』も、最初はみんなに「無理だ」と言われましたから。
でも、作り手が苦しまないと、お客さんは感動しないし、楽しんでくれないと思うんです。
この作品もいろんな苦労はありましたが、そうやって生まれたこの映画が、日本映画の新境地を切り開いてくれることを期待します。
取材・文/井上健一 撮影/齋藤ジン