このたび時代小説『仕掛人・藤枝梅安』シリーズが2部作として映画化されることになりました。主人公の藤枝梅安を演じるのは、豊川悦司さん。何度も映像化もされている人気シリーズに出演されるにあたりどうアプローチしたのか、また撮影での裏話、プライベートまでお話をうかがいました。
――作者・池波正太郎の生誕100年を記念し、ベストセラー時代小説『仕掛人・藤枝梅安』シリーズを2部作として映画化。豊川悦司さんが演じるのは主人公の藤枝梅安。役を引き受ける前に戸惑いと躊躇があったそうですが?
子どもの頃に緒形拳さんが演じられた梅安に夢中になって、憧れのヒーローでした。
その後も錚々たる先輩方が演じていましたから。
そのラインナップに自分が加わっていいのかなと悩んだり。
同時に、2023年のいま、"どういう風に新しい梅安を作れるのか?"ということも考えるうちに、時代劇だけれど、まったく新しい解釈でまったく違うアプローチをしてみたいという思いも湧いてきて。
新しい梅安、ニューヒーローを作る! と腹をくくって飛び込みました。
――仕掛人仲間の彦次郎を演じた片岡愛之助さんとの相性も抜群。バディームービーとしての妙味もたっぷりでした。
梅安役に決まった後「彦次郎ってどんな俳優さんのイメージがありますか?」と相談されたときに「愛之助さんはいかがでしょうか」とご提案させていただきました。
僕の中ではとにかく本物の時代劇をやれる俳優さん。
彦次郎が本物であればあるほど、逆に僕が梅安を崩して作ることができるという感覚がありました。
でも映像なのでちゃんと現代的な演技もできる人となると、もう、愛之助さんしか思い浮かびませんでした。
――愛之助さんは以前からのお知り合いですか?
接点はなく、今作で初めて共演させていただきました。
でもいざご一緒すると僕の思っていた通りで、今回の作品のような江戸の世話物の"間"みたいなものを、ちゃんと持っていらっしゃるので、会話に自然なリズムが生まれてくるんですよ。
――鍼医者・梅安になるために本格的な鍼の指導を受けたそうですが、仕掛人のたくましい肉体作りも?
普段はあまり役作りなどはしないのですが、梅安に関しては体作りも意識しました。
ふんどし一丁になったりするシーンもあるので。
心のなかでは「キツいなぁ」と思いながらもトレーニングに励みました(笑)。
衣装に関してもデザイナーさんが時代劇のリアリティーを押さえつつモダンなセンスを取り入れてくださった。
他の技術のスタッフの方々も色彩設計やトーンにこだわってくださったからこそ、新しい梅安が作れました。
初めて衣装にそでを通して鏡に映る自分を見たときに「とてもいい感じだな」と思ったことを覚えています。
――映画の感想は?
愛之助さんと一緒にみたのですが、2人とも「かっこいい映画になった」というのが正直な感想です。
まさにエンターテインメント!
いまの時代に日本映画がアプローチしうる最大の"娯楽"とはなにか?
そのためにはどういう題材を選び、どんなキャラクターを登場させればいいのか?
その一つの答えが、池波正太郎先生の"藤枝梅安"だと思います。
自分の実人生をちゃんとしなきゃ、と
――昨年は3作、今年はすでに本作と『そして僕は途方に暮れる』が公開。コンスタントに映画出演をされています。
前回の作品となるべく距離のあるキャラクターを選ぶようにしています。
その方が自分のなかで切り替えやすいですし、飽きっぽい性格だから、次々に楽しいことを求めてしまう。
でも役者って、三日坊主くらいの方が向いているのかも。
コンスタントに仕事が続けられるのは本当にラッキーだと思っています。
――そろそろ実現したい、やりたいことは?
もうちょっと仕事のペースを落として、いわゆる自分の実人生もちゃんと見ていきたいなという思いが強くなっています。
やっぱり一番は家族、それと友人との時間ですね。
最近は、仕事とはまったく違うところにいる人たちとの時間をもっと大切により多く持ちたいと思っています。
若い頃は、とにかく仕事に明け暮れていましたから(笑)。
取材・文/金子裕子 撮影/齋藤ジン