国籍、文化、境遇を超えて家族の意味を問いかける映画『ファミリア』。役所広司さんが演じるのは陶器職人・誠治。海外赴任中の息子の一時帰国のさなか、在日ブラジル人の若者と知り合い、絆を深めていきます。孤独を身にまとい、ふとした瞬間に優しさと強さを漂わ
せる佇まいは、名優・役所広司ならでは。
――出演を決めたのは?
外国人の方がたくさん登場しても、テロ事件を描いても現実感がある。
いまの僕たちの国で起こっていることだと思えたことです。
昔、『KAMIKAZE TAXI 』(1995年)でペルーから出稼ぎに来たタクシーの運転手を演じたことがあります。
そのときにも在日ブラジル人の方にお話を伺ったのですが、あのときと同じく、「自分たちは使い捨てだ」と皆さん言う。
苦労は何年たっても変わっていなんですよね。
――成島出(いずる)監督とのタッグは11年ぶりですね。
監督は数年前に大病をされたので"大丈夫かな"と心配もしましたが、お会いしたら以前よりも気力に満ちていて、より研ぎ澄まされた感じがしました。
「自分が撮らなきゃいけない」という使命感でしょうか。
演技経験のないブラジルの若者たちを選んで、俳優として人間として、映画を作る仲間としてのあり方を熱っぽく教えていました。
言ってみれば、我々ベテランのオヤジたちがヤキモチを焼くぐらいの愛情を彼らに注いでいましたね。
――監督が「誠治役は強すぎず弱すぎず、さじ加減が難しい」とおっしゃっていましたが?
親に育てられた人間ではないので、亡くなった奥さんにも息子にも、どう愛情表現をしていいか分からない。
でも、夢中になれる陶芸に没頭している暮らしは平穏だから、近隣のブラジル人たちとも無関係。
ところが、息子が海外でテロ事件の被害者になったことで、理不尽な目にあっているブラジルの若者たちの未来を、命をかけて守りたいと思ったのでしょう。
そのへんの心の推移が監督の言うところの難しい加減だと、僕自身も感じていました。
――"家族"とはなんでしょう。
僕の本当に血のつながった家族。
それは何をおいても味方ですよね。
どんなことがあっても最終的に味方でいてくれるのは、家族なんだと思います。
本来はねぇ。
父親としては自分のことを「不器用だから」とは言いたくないですけど(笑)。
日本人的な性格と言いますか、身近であれば身近であるほど、大切であれば大切であるほど、褒めたり大事なことを言ってあげたりしないところはあります。
「言わなくても、分かるだろ」的な。
でも言わなきゃ伝わらないし、誤解も招いてしまう。
僕もけっこう誤解されている......たぶんね(笑)。
『ガマの油』に続く監督作を実現させたい
――『ガマの油』(2008年)以来監督をされていませんが、今後の夢などは?
買ったままで積んである本を読みながら居眠りして、「今日は何をしようか?」という気ままな時間を楽しみたい。
違う国にも行ってみたいです。
解放感があって本来の自分に戻れるような気がします。
映画の製作もやりたいですねぇ。
いくつか企画があって動き出したことはあるのですが、なかなか資金が集まらず中断。
例えば、僕の故郷には戦時中に飛行場があったのですが、そこで訓練する少年兵と近所の少女の物語とかね。
でも昔の飛行機を飛ばすとなると、復元しなきゃいけないから、ものすごくお金がかかる。
CGじゃなくて、やはり本物を飛ばしたいじゃないですか。
まぁ、監督業も含め、やりたいことや夢を先延ばしにしていると、体が動かなくなってしまうから、そろそろ、動き出さなきゃいけないですねぇ。
衣装協力:ブルゾン/AUBERGE(オーベルジュ) セーター/GRAN SASSO(グランサッソ) パンツ/BERNARD ZINS(ベルナール ザンス) 以上全てBEAMS(ビームス 03-3470-9393)
取材・文/金子裕子 撮影/齋藤ジン ヘアメイク/勇見勝彦(THYMON Inc.) スタイリスト/安野ともこ