本誌連載陣らがおすすめする年末年始に読みたい良書。今回は、瀧井朝世さんがすすめる「自分らしい生き方を考えさせられる本」です。
瀧井朝世さんがすすめる「自分らしい生き方を考えさせられる本」
幻の都市が舞台の歴史×空想小説
2022年刊『地図と拳』小川 哲/著 集英社 2,420円(税込)
今年の新刊から3冊選びました。
1冊目は大変話題となった一作。
日露戦争前夜から戦後に至るまで、満洲の架空の都市を舞台に激動の時代を描き切る大作です。
不毛な土地にできたこの土地に、国内の移住者や、ロシア人宣教師、そして日本軍がやってきて、やがて策略と暴力が渦巻いていく。
多数の人物の視点を交え、いろんな角度から物語が進行しますが、魅力的な人も多数登場。
特に、最初は脇役に思えた細川が、少しずつこの物語のキーパーソンだと分かってくる。
混乱の世の中で、彼が目指したものとは?
懸命に生きる大人の女性への人生賛歌
2022年刊『若葉荘の暮らし』畑野智美/著 小学館 1,980円(税込)
2冊目は、四十代以上の女性限定のシェアハウスが舞台。
洋食店で働く40歳のミチルは、コロナ禍で収入が激減したため、格安家賃の「若葉荘」に転居します。
そこはキッチンや水回りは共有、掃除やゴミ捨ては"なんとなく"の当番制という、ゆるいルールのシェアハウス。
管理人や入居者の女性たちとほどよい距離感を保った、心地よい生活のなかで、ミチルは少しずつ、自分の今後について考えていく。
コロナ禍の孤独や生きづらさを慰めてくれるような一冊。
こんな場所があったら自分も住みたいなと思わせます。
かつての友を思い出す連作短編集
2022年刊『一心同体だった』山内マリコ/著 光文社 1,980円(税込)
この本を読んで、幼い頃から今に至るまでの友達を思い出す人は多いのではないでしょうか。
10歳から40歳まで、年代ごとの女性たちの友情が描かれる本作は、一話目の主人公の友人が、二話目の主人公となり、その友人が三話目の主人公で......と連なっていく作り。
学校生活や恋愛、結婚、就職など、さまざまな局面を迎えるなか、みんな友達関係に悩んだり、お互い助け合ったり。
友情のあり方、女性の生き方について考えさせられることも多く盛り込まれます。
女性同士の連帯に胸が熱くなる一冊。
取材・文/寳田真由美(オフィス・エム)