直木賞作家の井上荒野が自身の父である作家・井上光晴と母、そして瀬戸内寂聴をモデルに男女3人の"特別な関係"を綴った同名小説の映画化。寺島しのぶさんが演じるのは、作家・白木篤郎と道ならぬ恋に落ちる人気作家の長内みはる。愛に憑かれ、愛し続けることに疲れ、出家の道を選ぶ女性の激情と慈しみを体現しています。
――瀬戸内寂聴さんとお会いになったことは?
お手紙を書かせていただいて、撮影前に京都の寂庵でお会いする予定でしたが、コロナ感染が拡大して延期に。
結局、お会いできませんでしたが、"会えなかったことになにか意味があるのだろう"と自分に言いきかせて演じました。
――人懐っこくお話をされたりする表情など、寂聴さんに似ている瞬間がありました。
亡くなった後に、お住まいだった寂庵に伺って「力を貸してください!」とお願いしたから、寂聴さんがちょっとだけ乗り移ってくださったのかもしれませんね。
でもこの映画は、寂聴さんご自身を描いているわけではないのです。
あくまで小説の映画化であり、私も廣木(隆一)監督も原作が大好きだから、「これをやろう!」となったわけですから。
廣木監督の現場はやっぱり居心地がいい!
――廣木監督と篤郎を演じた豊川悦司さんとのタッグは、『やわらかい生活』(2006年)以来16年ぶりです。
「変わっていないかなぁ」という心配もありましたが、始まってしまうと居心地が良くて、幸せだなぁと感じながら撮影していました。
篤郎は女にだらしない男ですけど、豊川さんはその身勝手な感じを嫌味なく、うまい塩梅で演じていらっしゃいました。
――みはると篤郎の関係については?
双子の片割れと出会ったような、磁石のように引き合った関係なのでしょうね。
ふたりとも思う存分、やりたいように生きた。
この映画って全編を通してくっついたり離れたり、くっついたり離れたりしているお話。
それって理屈じゃなくて、本能のままに生きている人たちというか。
私としては「あんなに怒っているのに、また会うんだ」とかって、ツッコミどころ満載(笑)。
でも考えてみれば、現実の世界でも本当に愛し合うカップルを傍から見ていると、あまりに真剣過ぎて滑稽に見えたりするじゃないですか。
そこが描かれているのが、いいんですよねぇ。
剃髪のシーンは期待と不安が渾然一体
――得度シーンのために実際に髪を剃ったご気分は?
前々から男性気質がすごくあるなと思っていたのですが、坊主頭になったことで「これ、自分だな」と思いました。
中性的というか、なんて爽快なんだろう、自由だ!と。
なぜか分かりませんが、やたらと人に会いたくなって、社交的になりました。
撮影ではもちろん寂光(みはるの僧名)さんを演じているのですが、心配な私とウキウキな私。
そしてものすごく心配をしている周囲と、渾然一体となったシーンでした。
一発撮りでしたが、正直、寂光さんには集中できていないですね、あの顔は。
――みはるとの共通点もありそうです。次のステージとして考えられていることは?
やると決めたらやる。
突き進み型で、思ったことは止められないから、行くしかない!という性格は似ていますね。
そして思うのは50歳近くなって女性の主役という作品はなかなかないですから。
そこで廣木監督と豊川さんとご一緒できただけで、とても幸せです。
欲を言えば、廣木監督ともう1本、撮りたいです。
あとは、自分で書いて、自分で監督をして、出るという。
う~ん、私自身が屈折しているから、物語が変なふうになってしまわないかという危惧も抱いてはいるのですが......。
ちょっと、これから勉強してみます(笑)。
取材・文/金子裕子 撮影/齋藤ジン ヘアメイク/川村和枝 スタイリスト/中井綾子(crêpe)