節約をモットーにコツコツ老後の資金を貯めてきた主婦・篤子に、次々と襲いかかる大口の出費。さらに浪費家の姑との同居や夫の失業が拍車をかけて......。映画『老後の資金がありません!』で見事なコメディエンヌぶりを発揮している天海祐希さん。そんな天海さんに、撮影での秘話や年齢を重ねることについてお話を伺いました。
姑役の草笛光子さんに「一回笑っていいですか?」
――使い込んだショルダーバッグを持ち続けている篤子さんにキュンとなります。
自分のためにはほとんどお金を使わず、家族を家族として成り立たせるため一生懸命なんですよね。
その姿はすごく応援したくなるし、幸せになってもらいたいと思いながら演じていました。
――切実な問題を扱いながら笑える場面もいっぱいですね。年金詐欺のシーンは声を出して笑ってしまいました。
義理の母を演じてくださった草笛光子さんが毒蝮(三太夫)さんの格好で出ていらっしゃったときは、「一回笑ってもいいですか」とお断りして、目の前で大笑いさせていただきました。
これ言っちゃっていいのかしら。
あのシーンの途中で、何かがぽろっと落ちたんです。
そうしたら草笛さんが「あらやだ、歯が抜けたわ」って。
草笛さんの差し歯だったんですね。
だけど「いまからじゃ歯医者にも行けないし、このまま撮るわ」とおっしゃって撮影を続行されたんです。
なんて懐の広い方なんだろうと感動して、「私もこういう人になろう!」と思いました。
私は草笛さんのことを「中世ヨーロッパの貴婦人」と呼んでいるんです。
映画の登場シーンで真っ赤なコートをお召しになっていますが、あのコートを着こなせる人はなかなかいないんじゃないかしら。
今回、姑の芳乃さんがどこまで分かっていてとぼけているのか、境目が見えないところがあるのですが、そこが草笛さんご本人の持ち味のような感じがして。
芳乃さんが豊かでかわいらしく、それでいて人生をちゃんと乗り越えてきた女性として目の前にいてくださったので、草笛さんのお芝居を受け止めて返すことで、ちゃんと篤子という女性が成り立った気がします。
――篤子さんの奮闘ぶりにやがて周囲も感化されていく。最後は希望も感じられて。
人間って一生懸命なときほどはたから見て面白いことがあるでしょう?
そういう瞬間が積み重なっている映画だなと思います。
この1~2年、老後の資金以上にいまどうなるか、明日どうなるかが目下の悩みになってきていますよね。
そこを笑い飛ばせとは言えませんが、少しでも気が楽になったり明るく考えられるお手伝いができたら、映画の公開を1年間延期した意味もあるのではないかと思います。
私史上初の毎日を楽しんで積み重ねたい
――年代によっても悩みの種類は変わってきますが、年齢を重ねることについてどのように捉えられていますか?
時間を重ねるって、毎日初めてを経験していることだと思うんです。
毎日が"私史上初"ということだから、それを楽しめる自分でいたい。
世間的にはしっかりした大人と認識される年齢になりましたが、中身はそこまで変わっていないんですよね。
でも、母や父もそういうギャップに悩んだことがあったのかしらとか、そういう発見ができるのも、年を重ねたからこそ。
白髪もぼちぼち出てきましたが、染めずにありのままでいたいと思っているんです。
それは私たちの職業がその年齢をちゃんと見せることができるお仕事だから。
祖母や母が経験してきたようなことをきちんと積み重ねて、そのつどその年齢じゃないと発見できないことを感じて、表現していけたらいいですね。
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取材・文/鷲頭紀子 撮影/吉原朱美 ヘアメイク/林 智子 スタイリスト/大沼こずえ(eleven.)