歌舞伎役者・尾上右近さん、「自分は内に黒さを内在した人間です」"歌舞伎界のプリンス"の秘めたる思い

7月からミュージカル『衛生』に古田新太さんとダブル主演する歌舞伎役者・尾上右近さん。「汚いミュージカルをやろう」という発想からスタートした欲望の物語で、登場人物が全員悪者という異色の作品です。そんな尾上右近さんに出演を決めた理由や、家族との関係性などを聞きました。

歌舞伎役者・尾上右近さん、「自分は内に黒さを内在した人間です」"歌舞伎界のプリンス"の秘めたる思い 2107_P068_01.jpg

美しいだけじゃなく一石を投じるような

──かなり強烈な作品、役柄ですが、オファーを受けたときのお気持ちは?

元々、お客さんが見て何か嫌な思いになったり、胸が締め付けられたりするような作品に出たいという思いがありました。

美しいだけじゃなくて、何か一石を投じるというか、あまり言ってはいけない、やってはいけないことの根源にあるものを代弁するようなお芝居に出たいという思いがあったので、脚本を見せていただいて、これはぜひやりたいと思いました。

僕は歌舞伎界のプリンスなどと呼んでいただくことがあり、とてもありがたいことですが、実は内に黒さを内在した人間です。

人を憎んだりすることもある。

けれども、それを自己責任と受けとめて、自分に対するいら立ちや怒りにスイッチしてエネルギーに変えて日々を送っています。

だから変換する前の醜い部分をそのまま出せる機会がほしいと思っていたところに、このお仕事が近寄ってきてくれた感じです。

──古田新太さんとは初共演ですか?

はい。

古田さんは僕が歌舞伎以外のお芝居に関心を抱き始めた頃、ものすごい役者さんだと最初に感じた方なので、ダブル主演のお話をいただいて、本当かな、ドッキリじゃないのかなと思いました(笑)。

特殊な世界で苦労した母に教えてもらったこと

──右近さんの家系は華々しい芸能一族ですが、ご家族との関係性は?

家族は距離がとても近くて、特に母とは深い信頼関係で結ばれています。

母は俳優、鶴田浩二の娘という特殊な環境に生まれて、普通の感覚を養うために若い頃から努力をしたそうです。

そこから江戸浄瑠璃清元節宗家であり、歌舞伎役者の一族の家に入って苦労もあったと思うんです。

そんなこともあって、母は人をとても大事にする人で、その感覚がいかに大切かということを僕に教えてくれた存在です。

苦労は表に出さない人ですが、僕は近くにいてそれを知っているので、僕の仕事が充実することで母も喜んでくれるとうれしいですね。

舞台は必ず見に来てくれます。

──お母様の影響を感じることはありますか?

僕はいい空気が好きだと気付いて、それは母の影響だと思いました。

みんなでいい作品を作ろうとお稽古しているときなどの空気ですね。

そんなときに「右近君がいると場が明るくなる」とか「いてくれてよかった」などと言ってもらうと、もっと空気づくりができる人間になりたい、空気づくり職人になりたいと思います。

それも母が日頃から人に思いやりをもつ、気配りをするということを徹底していて、そういう空気を感じてきたからだと思います。

おすすめしたいやさしいカレーとは

──「カレー好き」の姿がバラエティ番組等で話題です。読者におすすめのカレーはありますか?

富良野のスープカレーのチキンがおすすめです。

スパイスは効いてるんですけど、やさしいし、レトルトとは思えないクオリティーで、ゴロッと入っているチキンもジューシーでおいしいです。

スープなのでサラサラしていて気軽に食べられるし、しつこくないのがいいですよ。

取材・文/山城文子 撮影/齋藤ジン

 

尾上右近(おのえ・うこん)さん
1992年5月28日生まれ。7歳のときに歌舞伎座『舞鶴雪月花』の松虫で初舞台。歌舞伎のみならず大河ドラマ「青天を衝け」など多方面で活躍。出演した映画『燃えよ剣』は10月公開予定。

「ミュージカル『衛生』〜リズム&バキューム〜」

東京公演 7月9日(金)~25日(日)
大阪公演 7月30日(金)~8月1日(日)
福岡公演 8月9日(月・振替休日)~11日(水)
出演:古田新太 尾上右近 咲妃みゆ 石田 明(NON STYLE) ともさかりえ 六角精児 他
脚本・演出:福原充則
音楽:水野良樹(いきものがかり) 益田トッシュ

舞台は昭和33年。し尿の汲み取り業者の社長とその息子を中心に、利益を出すためなら殺人もいとわないという経営方針でのし上がってきた「諸星衛生」。搾取と暴走と汗が炸裂する欲望の物語。 

この記事は『毎日が発見』2021年7月号に掲載の情報です。

この記事に関連する「趣味」のキーワード

PAGE TOP