5月公開の映画『死刑にいたる病』で恐ろしい連続殺人鬼を演じた阿部サダヲさん。多くの舞台人・映画人から信頼される阿部さんの仕事観や健康法を聞きました。
今後の展望は、特にありません!?
――映画、ドラマだけでなく、舞台では特に運動量が多いイメージの阿部さん、体力維持が大変そうです。
さすがに次の日のことは考えるようになってきました。
明日があるから夜更かしはやめようとか、喉を大事にしようとか。
歩くのは好きなので、暇があると歩いたりはしますけど、お酒を飲みたいときは飲むし、無理しない感じです。
最近、ちゃんと人間ドックにも行きました。
でも僕、検査って苦手なんですよ。
血を抜かれたり、血管細いとか言われたり。
僕は50年ぐらい、この血管でやってきているのに(笑)。
――無理せず、しかもそのときそのときを楽しんでいる感じですね。
舞台を楽しんでいる、と言われることもあって、それはうれしいです。
僕も役者が楽しんでやっているのを観ると、いいなと思いますし、お芝居を知り過ぎない、というくらいでいいのかなとも思うんです。
やっぱり演じるっていうのは恥ずかしいことなんだっていう、その意識は持っていた方がいいんだろうなと。
それは所属している劇団の「大人計画」に入ったときに、主宰の松尾スズキさんにも言われたことなんですけど。
自分が勝手に気持ちよくやっていいわけじゃないっていうか、どこか観客の視点がある方がいいんでしょうね。
なので普段から自分とはまったく別の役をやってみたいという欲求は強くて、普通に生活していたら経験できない役はやってみたいと思っています。
ただ今回の『死刑にいたる病』の大和という人は連続殺人鬼で、お芝居とはいえ、人をいたぶるというのは、やっていて気持ちのいいものではないなと。
どこか共感できるところも出てくるかなと思ったけれど、やっぱり最後までそうはならなくて難しかったですね。
大和は人の心に知らぬ間に入り込んで人を操るような怖さがあるんです。
自分が刑務所に入った後に、面会に来た岡田健史くん演じる雅也という青年を操って、思い通りにしようとするのですが、このシーンは撮影していても怖かったし、面白かったし、シビれました。
僕自身、心に入り込まれやすいタイプなんだと思います。
だから、役者をやっているんだろうなと。
朝、テレビの占いを見て、心の準備をしておくのが習慣みたいにもなっていますから。
家を出るとき、ついラッキーカラーを身につけたりして。
――今回はリモート取材(対面ではなくパソコン画面での取材)。コロナ禍で取材の仕方も変わりましたが、阿部さんはこれも楽しんでいらっしゃいましたね。
面白かったですね。
皆さんがパソコン画面に映るのですが、人によっては画面が真っ暗だったり、背景が森でシュールな映像だったり。
そうやって新しいことをやるのは楽しい。
だから、僕がいちばん暗いのは稽古場ですね。
同じことを何度も繰り返しますから。
特に(同じ劇団に所属の)宮藤(官九郎/脚本家・監督・俳優)さんの稽古場は(笑)。
――宮藤さん脚本の大河ドラマ『いだてん』の田畑政治役も印象深かったです。今後の展望はありますか?
展望は......役者としてとか、そういうの僕、あまりないんです。
60代になって、自分が乗りそうもない高級車に乗っていたら面白いですけど。
長く続けられている先輩方はすてきだなと思うので、僕も、できるだけ長く続けられたらとは思います。
取材・文/多賀谷浩子 撮影/齋藤ジン ヘアメイク/中山知美 スタイリスト/チヨ(コラソン)