生物年齢と脳年齢はあまり関係がないんです。
脳と心の謎という深遠な研究テーマに取り組みながら、テレビや雑誌、ブログを通して、脳の不思議を分かりやすく解説している脳科学者の茂木健一郎さん。その茂木さんいわく、脳のアンチエイジング(老化防止)に何より大切なのは、「思春期の頃のように、ときめいたり、揺れ動いたり、ドキドキ、ワクワクすること」なのだそうです。
年齢に縛られた〝らしさ〞は脳の敵!
「まさに、この雑誌のタイトルのように、『毎日が発見』という気持ちでドキドキ、ワクワク過ごすことが、脳を刺激し、老化を防ぐ理想的な方法。芸術家の方たちが見た目も、考え方も若々しいのは、何歳になってもときめき脳を持ち、ワクワクしながら生きているからなんです。ところが多くの人は、年齢を重ねるに従ってときめきやワクワクを手放してしまう。その原因の一つは、〝50代らしく〟とか、〝60代にふさわしい生き方をしなければ〟とか、〝もう70代だから〟という固定観念に縛られてしまうから。こうした年齢主義は、脳の敵。まず、年齢主義をやめましょう!と言いたいですね」と茂木さん。
なぜなら、「◯歳らしく」と考え方を固定化してしまうことは自分の世界を狭め、脳の老化につながるからだそうです。
「年を重ねても若々しい人は、年齢なんて忘れ、自由に生きている。逆に、大学生なのに若々しさのかけらもない人は、おおむね、『いい大学に入ったし、人生は安心安全』と考えが固定化しているタイプが多いですね。つまり、生物年齢と脳年齢はあまり関係がないんです。近年の脳科学の研究によって、脳の若さは、考え方を固定化せず、ときめいたり、ドキドキワクワクしながら脳の回路を十分に使うことで保てるということが、分かってきた。だから、脳のアンチエイジングや認知症予防のために、生活習慣を見直して考え方や発想力を鍛えましょうと言われるようになってきたわけです」
普段から物事を決めつけたり、考え方を固定化していないか、気にかけてみるだけでも、脳の動きは変わってくると茂木さん。
「例えば、僕が旅先で宿に着くなりよく言われるのが、『先生、お疲れでしょう。どうぞお座りください』。これも勝手な決め付けでしょう。僕は疲れてないし、好きだから立っているのに(笑)。そういうとき、『すてきな出会いがありましたか、おいしいものを食べましたか、どんな景色を見ましたか』と聞いてくれたら、ワクワクする会話が始まるわけですよ。決め付けることで、ときめく時間を失ってしまうのはすごくもったいない。ときめきが多い方が人生、絶対に楽しいんですから」
脳の記憶を引き出して「ときめき脳」を手に入れる
「ときめき脳とは、いつもドキドキワクワク、素直に物事を見ていた子ども時代や青春時代の脳のこと。いまここにあることをありのままに感じ、ありのままに受け止められる脳のこと」と茂木さん。それをどうやって取り戻すのかというと、意外にも簡単な方法があるそうです。
「脳はその人の履歴でできているので、60歳の脳の中には5歳の脳も、20歳の脳も隠れている。多くの人は普段それを忘れているけれど、自分が感じてきたことを思い出せば、60歳でもティーンエージャーにもなれるし、青春も取り戻せるんです。昔のことを思い出すと、懐かしくなって胸がキュンとしたり、ときめいたりしますよね。その当時のみずみずしい感情をそのまま思い出すことが、過去の自分を取り戻すことにつながり、ときめきが戻ってくるわけです。昔の自分はこんなことを考えていた、こんな趣味があったんだと発見したら、もう一度チャレンジしたらいい。僕の60代の友人にも、若いころに憧れていたバイクのハーレーに乗っている人や、時間ができたらやりたかったというカメラに凝っている人が何人もいます」
茂木健一郎 先生(もぎ・けんいちろう)
脳科学者。1962年東京都生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経てソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。著書に小林秀雄賞受賞作の『脳と仮想』(新潮文庫)、桑原武夫学芸賞の『今、ここからすべての場所へ』(筑摩書房)など多数。
夜間飛行刊 (1,600円 + 税)
茂木さんが幼少期から現在まで、大切にしてきた記憶を元につづった46のエピソードを収録。「この本を読んで、それぞれの方が自分バージョンのエッセイ集を作ってくれたらうれしいです」と茂木さん。ときめき脳をつくるのに、参考になりそう!
夜間飛行ホームページ http://yakan-hiko.com/