茂木健一郎先生! 「ときめき脳」ってどんな脳ですか? (後編)「恋の記憶がときめき脳をつくる」

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いちばん思い出しやすいのは感情と結び付いている記憶。恋。


脳と心の謎という深遠な研究テーマに取り組みながら、テレビや雑誌、ブログを通して、脳の不思議を分かりやすく解説している脳科学者の茂木健一郎さん。その茂木さんいわく、ときめいたり、ワクワクしたりすることこそ、脳のアンチエイジング(老化防止)に何より大切なのだそうです。

前編はこちら。

心の動きを書くことで、脳を鍛えられる


脳の側頭連合野に蓄積された昔の記憶を前頭葉に引き出すことで、脳の回路が強化できるのも大きなメリット。実際にこの方法は、認知症治療の現場でも回想療法として使われているのだとか。
「脳の回路は使えば使うほど強化されます。運動すれば筋肉量が増えるのと同じことですが、残念ながら脳の中は見えない。だからこそメンテナンスはしっかりやった方がいい。始めるなら、脳が元気なうちの方が記憶は引き出しやすいですね」

そこで、ときめき脳をつくるための具体的な方法を茂木さんに伺ってみた。すると、「いちばん思い出しやすいのは感情と結び付いている記憶。初恋、恋に落ちた瞬間、結婚を決めた理由とか。友達と一緒に思い出しても、盛り上がるんじゃないですか」とアドバイスが。
「以前、ツイッターで〝恋に落ちた瞬間〟の話を募集したことがあって、これが実に面白かった。いまでもよく覚えているのは、『子ども向けのショーで着ぐるみのアルバイトをしていた男の人が、着ぐるみを脱いだらクマみたいだったとき』という投稿。『見た目がカッコいいから』とかではなく、人は意外なところで恋に落ちるものなんですね」

ちなみに、茂木さんの初恋の記憶は小学校3年生の時。同じクラスのNさんが、黄色い傘を差して校庭を歩いているのを見た瞬間だったとか。
「1人で傘を差して歩くNさんを見るまでは、何の感情もなかったのに、急に、大好きだ!と気付いたんです。本当に不思議ですよね、人間の感情って。
あと、人生の潮目が変わった瞬間も思い出してみるといいと思います。僕の場合は、学生時代に彼女と入ろうとしたフランス料理店で、Tシャツにくしゃくしゃのジャケットという僕の服装のせいで門前払いを受けた記憶。本当に恥ずかしかったですよ」
彼女の前でプライドを傷つけられた茂木さん、門前払いを受けた後で、そのフランス料理店に怒りの電話を入れたそうです。

「どうして心がそう動き、そんな行動をとったのか。そこまで記憶を掘り下げてエッセイをつづるように書いてみると、自分はこういう人間だったんだ、ということまで見えてきます。嫌な記憶は書くことで成仏させられるし、人に読まれることを前提に文章を書くと記憶が整理されて、さまざまなことを思い出すきっかけにもなる。何より、書くという表現手段を手に入れることで自分を解放でき、若々しい脳を保つことにもつながります。読者の方にもぜひ何か書いてほしいですね」

時代とともに脳と心のあり方は変わる

茂木さんの最新刊『ありったけの春』も、茂木さんが子どものころの記憶をたどって書いた一冊。脳科学者という仕事柄、どうしてもアンチエイジングや人工知能についての執筆依頼が多くなる中、「人生でいちばん大切なことは、注文の来ない原稿の中にある」と考えたのが、書くきっかけだったと言います。

「僕は、これまでどんな瞬間に何を悲しいと思い、何がうれしくて、何が不思議だと思ったのか。そういう心の動きを改めてたどってみると、自分が見えてきますよね。幼稚園の頃から赤い色が好きだったのはなぜだったのか。一度しか行ったことがないのに懐かしく感じる場所があるのはなぜなのか。いつもの見慣れた町なのに新鮮に感じることがあるのはどうしてなのか...。心がいつもと違うときめき方をしたときというのは、何かのサインなんです。

いまの60歳以上の人たちは、学生運動やフラワーチルドレンをはじめ、高度経済成長期のあらゆることを経験してきた世代。ものすごくたくさんの引き出しを持っている。その記憶を思い出して命を吹き込むことでときめき脳を取り戻し、同時に脳も鍛え、仕事も子育ても一段落したいまから第2の青春期を謳歌できたら、素晴らしいですよ。

時代とともに、脳と心のあり方は変わっていくもの。ときめき脳を手に入れた『毎日が発見』世代がどう進化していくか、楽しみですね」

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茂木健一郎 先生(もぎ・けんいちろう)

脳科学者。1962年東京都生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経てソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。著書に小林秀雄賞受賞作の『脳と仮想』(新潮文庫)、桑原武夫学芸賞の『今、ここからすべての場所へ』(筑摩書房)など多数。

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『ありったけの春』

茂木健一郎/夜間飛行

茂木さんが幼少期から現在まで、大切にしてきた記憶を元につづった46のエピソードを収録。「この本を読んで、それぞれの方が自分バージョンのエッセイ集を作ってくれたらうれしいです」と茂木さん。ときめき脳をつくるのに、参考になりそう!

夜間飛行ホームページ http://yakan-hiko.com/

この記事は『毎日が発見』2017年9月号に掲載の情報です。
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