定期誌『毎日が発見』の連載でもおなじみ、中野京子さんのベストセラーを元にした舞台『怖い絵』が3月に上演されます。この舞台に出演される寺脇康文さんにお話を伺いました。
怖さと笑いは、表裏一体!?
――舞台『怖い絵』に出演されますが、寺脇さんというとコメディの印象が強いです。
俳優を目指して最初に入った三宅裕司さん主宰の劇団スーパー・エキセントリック・シアターも、その後岸谷五朗と立ち上げた演劇ユニット「地球ゴージャス」もコメディ中心ですからね。
自分のやることでお客さんが笑っている顔を見るのが生きがいなのですが、普段、コメディをやっている分、客演で他の舞台に出演させていただくときは、それとは違う作品をやりたいという思いがあるので、今回のミステリーも楽しみなんです。
物語としては尾上松也さんが怖い絵の収集家で、彼には裏の顔があって、言ってみれば現代の必殺仕事人みたいな感じ。
僕は彼に依頼をしに行く役なんです。
『怖い絵』の本に出てきた絵画も物語に出てきますが、本当に怖い絵ですよね。
僕自身、怖い話は苦手なのですが、『怖い絵』の展覧会が開催されたとき、本当に大勢のお客さんが観に行ったそうなんです。
怖いもの見たさなんでしょうね。
大体、「怖い、怖い」って騒いでいるとき、その人の顔は笑ってますから。
笑いと恐怖って正反対のようで、日常とは違う感情の振れ方をするという意味では表裏一体。
だから、どちらもエンターテインメントになるのだと思います。
日常を忘れてドキドキしに劇場にいらしていただけたらうれしいです。
年齢を重ねたから感じられること
――舞台公演は長丁場ですが、トレーニングなどは?
朝は必ずゆっくりストレッチをします。
その後筋トレをして、仕事がないときはウォーキングに出ます。
他に決めているのは体重計に乗ること。
体調がいいベスト体重があるので、それを超えたら食事を控えめにするんです。
僕は趣味が何もなくて、唯一の楽しみが夜の晩酌。
それはガマンしたくないので、他の食事を食べ過ぎないようにしています。
やっぱり気の合う人と飲むのがいちばんですね。
僕にとっては岸谷五朗。
38年の付き合いになりますが、いまでも話が尽きない。
また飲めるような生活に戻れたら、昼から飲んで、早めに解散です(笑)。
お互い年を取ったので。
とはいえ、「相棒」でご一緒した水谷豊さんなんて僕より10歳年上ですが、いまだに長台詞がお得意で、水谷さんががんばっていらっしゃるうちは、僕もがんばろう!と思える先輩。
舞台の師匠である三宅裕司さんといい、いい年の取り方をされている先輩の姿は本当に励みになります。
年を取るのも悪くないなと思うんですよ。
若い頃と違うなと思うのは、何もしない一日も「よかったな」と思えるようになったこと。
若い頃は「何か面白いことないかなぁ」と当たり前のように思っていましたが(笑)、いまは日々の何げないこと、一つひとつをいいなぁと思えるようになってきました。
人生も折り返し地点を過ぎて、いずれ終わると知っているのなら、いまをなるべく笑顔で過ごしたい。
今日をプチ一生と考えて、一日の終わりに「今日もよかったな。明日もよく生まれよう」と思って眠る。
その繰り返しがあれば、いつ終わってもいいのかなと思います。
今日は何もしなかったなという一日でも、何かはあったはずなんですよ。
茶柱が立ったとか(笑)。
そういう自分にとっての特別な瞬間を自分だけでも楽しめるようになる。
それが年齢を重ねる豊かさなのかなと思います。
取材・文/多賀谷浩子