「50代は十分若いわ。やりたいと思ったらやりなさい」。ターシャ・テューダーにそう言われ、アメリカのバーモント州を舞台に「夢」を追い続ける写真家、リチャード・W・ブラウン。ターシャの生き方に憧れ、彼女の暮らしを約10年間撮影し続けた彼の感性と、現在75歳になる彼の生き方は、きっと私たちの人生にも一石を投じてくれるはずです。彼の著書『ターシャ・テューダーが愛した写真家 バーモントの片隅に暮らす』(KADOKAWA)より、彼の独特な生活の様子を、美しい写真とともに12日間連続でご紹介します。
冬に備え、たきぎ集めをするターシャ・テューダー。
初めて出会ったターシャに、なぜそれほど惹かれたのだろう。
今、ターシャを撮影した何万枚もの写真を見直してみると、その理由がわかる。
ぼくは、心惹かれるものがあるとたいていそれに4、5年集中し、興味が移ると、次のものにまた数年集中する、という傾向があった。
ターシャは、それまでにぼくが追い求めてきたものを全部持っていた。
それも、ターシャならではのスタイルで。
その第1はバーモントへの憧れだ。
ターシャはそれまでニューハンプシャーに住んでいたが、長い間、バーモントで暮らすことを夢見ていた。
そして子育てが終わり、ひとりになったとき、その夢を実現させた。
手に入れた土地に、気に入っていた18世紀築の農家とそっくりの家を息子のセスに建ててもらって移り住んだのである。
同様にぼくもバーモント州とその風景に魅せられ、大学を卒業すると教師になってバーモント州に移り住み、そこで写真家になった。
ぼくが撮影した、バーモントの人々の暮らしと風景の写真は膨大な数にのぼる。
つぎに農業がある。
ターシャはずっと農業をしながら子育てをしてきた。
バーモントに移ってからはヤギとニワトリを飼い、長男夫婦が飼っていたヒツジもときどき世話をしていたし、畑ではいろいろな野菜を育てていた。
家畜のほかにも犬、猫、鳥などのペットをたくさん飼っていた。
なかでも真っ白なクジャクバトは、なんてチャーミングなのだろうと思った。
一方ぼくがバーモントの人の暮らしに惹かれたのも、バーモントの農家が昔ながらのやり方で農業をしていることに興味を持ったからだ。
そして自分でも農業がしてみたくなって、ウシやヒツジ、 ウマを飼い、トウモロコシや大豆の畑も営んだ。
さらには、ターシャがしていた19世紀風の暮らし──それこそぼくがバーモントでずっと探して撮影してきたものだ。
ぼくがバーモントで暮らし始めた当時、州内にはまだそんな暮らしが残っていた。
今でもそういう場所はあるが、だんだん見つけるのが難しくなっている。
だから初めてターシャの家を訪ねたときは、 卒倒するかと思うほど驚いた。
そして庭──ターシャは目を見張るような、広大で美しい庭をつくっていた。
その頃ぼくはガーデン写真家として、ほぼ10年以上、最初はアメリカ国内で、その後雑誌社などから派遣されてイギリス、フランス、日本、ニュージーランド、オランダなどで、さまざまな庭の写真を撮ってきていた。
庭を撮影すること、あるいは庭そのものが、ぼくのインスピレーションになっていたので、ターシャの庭を、しかもそれがもっとも熟していた時期に撮影できたのは、この上ない幸運だった。
このように、ぼくが追い求め、カメラに収めてきたものすべてが、ターシャというひとりの人が創り上げた独自の世界に凝縮されていたのである。
その上に、これは最初の出会いの瞬間からわかったのだが、ターシャは頭の回転が速く、ユーモアがあり、知性のある人だった。
一緒にいて、とても楽しかった。
彼女とは出会うべくして出会った、という気持ちだった。
ターシャが愛用していたアンティークのそり。19世紀のもの。
最初から読む:19世紀に迷い込んだのか...⁉ ターシャ・テューダーとの出会い/バーモントの片隅に暮らす(1)
ターシャ・テューダーとのエピソードやバーモント州の自然の中で暮らす様子が、数々の美しい写真とともに4章にわたって紹介されています