「毎日が平凡であるのはすごいこと」ターシャ・テューダー 花と動物を愛したアメリカの絵本作家(前編)

「毎日が平凡であるのはすごいこと」ターシャ・テューダー 花と動物を愛したアメリカの絵本作家(前編) 1801p4.jpg心のままに人生を楽しんだターシャ・テューダー。その暮らしを描いた映画『ターシャ・テューダー 静かな水の物語』の監督・松谷光絵さんに聞きました。素顔のターシャから受け取ったものは何ですか?

 
いまをありのままに映して受け入れる、静かな水のようであれ...。
映画のタイトルはターシャの生き方そのもの

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子育てを終え、56歳から、2008年に92歳で亡くなるまでアメリカ・バーモント州の山中に建てた"コーギコテージ"で暮らしたターシャ・テューダー。19世紀風のドレスを着て、美しい庭に四季折々の花を咲かせ、動物と戯れ、人形作りを楽しむ...。そんな手作りにあふれた暮らしをして、真っすぐに日々に向き合いました。誰に見せるためでもなくただひたむきに人生を楽しんだのです。

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時を同じくして、映画『ターシャ・テューダー静かな水の物語』が公開されました。松谷さんは監督としてアメリカを幾度も訪ね、晩年のターシャご本人にお会いになったそうです。

――まず『静かな水の物語』という映画のタイトルについて聞かせてください。
松谷「いろいろな意味があります。一つは、ターシャがスティルウオーター(静水)教という架空の宗教を作っていたから。アメリカ人は会うとすぐに宗教は?って聞く。〇〇教ですって答えると、ああ、そういう人なのねとその人の中身を想像する...。そんな会話が嫌いなんだと言っていました。でも自分がスティルウオーター教だと言えば、きっと少数の宗派なのだろうとみんなが勝手に理解してくれるから、面倒臭くなくていいんですって(笑)。でもそれはジョーク、表向きです」

――本当の理由は?
松谷「彼女がスティルウオーター教を作ったのは、何かあったときに神様のせいにしたくないという思いからです。庭作りでも畑仕事でも、生きていればうまくいかないことはたくさんありますよね。でも、そのとき、お願いしておいたのになぜこんなことになるの? と神様を恨むのは潔くないと」

――自分の人生を、他人のせいにしない...。
松谷「そうです。もう一つは、スティルウオーター(静水)のあり様をターシャが好んだから。自然の中に水があれば、春は木々の緑を、秋なら紅葉を映しますよね。水そのものに色があるわけではなく、その周りにあるものを映し込んで、きれいです。ターシャは、自然や自分の周りの環境をそのまま受け入れ、一体となったとき、そこに美しさがあるはずだと考えていたのです。だから、自分は水であれと」

 

『動物が好きなのは生きていることだけで満足しているから。
あなた、不幸な鳥を見たことある?』

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松谷「ターシャは犬や鳥など、たくさんの動物と暮らしていました。なぜ動物が好きなのかと聞いたら、不平を言わないからって。動物は、いま生きている世界に足りないものを求めない。私は赤い羽根がほしいのに、なんで茶色なの?と涙を流している鳥はいない。みんな自分の環境に満足しているでしょうって話してくれました」

――嘆いていても仕方ないと。
松谷「生きているのだから、楽しむ以外に何があるの?って。人は動物の世界を小さいと思うかもしれないけれど、そこにすべてがあったのでしょう」

ーーまるで動物たちと同じように、純粋無垢に生きていた...。
松谷「ターシャはコーギコテージで庭作りをし、ゆっくりと料理をし、家族との時間を大切に晩年を過ごしました。それを小さな世界に閉じこもっているように見る人もいるかもしれないけれど、決してそうではない。いま自分の周りにあるものに目を向けずに、遠くばかり見て、あれがない、これがないって言っていることが果たして本当の幸せなのか? そう問いかけたかったのかもしれません」

――時間に追われて慌ただしく暮らす現代人が、どうしてターシャに惹かれるのか、少し理解できた気がします。
松谷「あとは、水を覗き込んだときに映るのは自分の姿だということ。人生の中で何をしたいのか、何をするべきなのかは、まず自分に問うものですから」

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――水面は鏡なのですね。
松谷「静かな水のように心が穏やかであることも大事にしていたと思います。毎日が平凡であることはすごいことだって」

「毎日が平凡であるのはすごいこと」ターシャ・テューダー 花と動物を愛したアメリカの絵本作家(前編) 1801p4.jpgターシャ・テューダー。1915年アメリカ・マサチューセッツ州ボストン生まれ。父はヨットや飛行機の設計家、母は肖像画家。誕生前に兄が亡くなり、ターシャは悲しみに暮れた両親の愛を一身に受けたが、どうしても兄の代わりにはなれないと絶望。わずか9歳のときに、自分は自分らしく生き抜こうと決心したという。

 
Ⓒ2017映画『ターシャ・テューダー』製作委員会

 

後編「「自分の国の王様になりなさい」ターシャ・テューダー 花と動物を愛したアメリカの絵本作家(後編)」はこちら。

取材・文/飯田充代 撮影/斎藤大地(松谷さん) 

「毎日が平凡であるのはすごいこと」ターシャ・テューダー 花と動物を愛したアメリカの絵本作家(前編)
松谷光絵まつや・みつえ)

監督。動物ドキュメンタリーの他、「世界遺産」(TBS)を始め作品多数。「喜びは創り出すもの~ターシャ・テューダー四季の庭」(NHK)のシリーズも手掛ける。

 
この記事は『毎日が発見』2018年1月号に掲載の情報です。

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