10歳で発達障害のひとつ、アスペルガー症候群と診断された岩野響さん。中学校に通えなくなったのをきっかけに、あえて進学しない道を選んだ15歳の「生きる道探し」とは?
著書『15歳のコーヒー屋さん』を通じて、今話題のコーヒー焙煎士・岩野響さんの言葉に耳を傾けてみましょう。
◇◇◇
前の記事「「もしかして耳が聞こえていないの?」ー母親が語る幼少期/岩野響『15歳のコーヒー屋さん』(7)」はこちら。
小学校3年で発達障害の診断を受ける
小学校入学前に就学前健診は受けましたが、そこでは特に問題なく、普通級への進学が決まりました。響はおとなしい子で、暴れたり、じっとできなかったりするようなタイプじゃなかったので、誰にも気づかれなかったのかもしれません。
3年生のときに教室を飛び出すようになってしまったのは、いま思うと、聴覚過敏もあり、騒がしさに耐えられなかったのだと思います。
聴覚過敏は、通常よりも音が大きく聞こえるなどバランスが悪い症状で、発達障害の子たちに多い、感覚過敏の一種です。
響が発達障害だとわかったのも、この頃でした。
気づいたのは、学年主任の先生です。その方は以前、特別支援の施設にいらしたので、教室を飛び出す響のようすを見てすぐに気づいてくれて、発達障害の専門医を紹介してくれました。
病院の先生からは、はじめて会った日に「発達障害の中でもアスペルガー傾向のあるお子さんだと思います」と言われました。
それから脳波をとったり、心理テストを受けたりして、響がアスペルガー症候群であることがわかりました。
本来は活動している脳の一部が動いていないこと、それが原因で、理解もしているし感情もあるけれど、不器用だったり、不適切な行動をとったりすること。
おもな特徴として、相手の気持ちを察するのが苦手、場の空気が読めない、まわりに合わせるのが苦手、自分のルールや手順にこだわる、マニアックな世界観を持っているなどの、具体的な説明を受けました。
響が発達障害だとわかったときは、ショックというより、ほっとしたのを覚えています。それまでは、私の育て方が悪いのかな?私の言い方が悪いのだろうか?私に原因があるのかな......とずっと自分を責め続けていたからです。
ただ、できないことをなんとかできるようにさせようと、怒ったり何度も練習させたりしていたので、もっと早く障害だとわかってあげていたら、響につらくあたることもなかったのになと思ってしまいます。
診断してもらってからは、本やインターネットを読みあさり、発達障害やアスペルガー症候群について調べました。調べるほどに響にあてはまることがいっぱいあって、驚きました。
響の行動で理解できなかったことはノートに書き留めておき、次に先生に会うときに持っていきました。こういうことがあったと見せると、先生が「これは、こういう理由ですね」と解説してくれました。
理解できなかった響の行動には、本当はすべて理由があって、それが独自すぎる解釈であるがゆえにまわりに理解されにくいだけ。響には響なりの理由があり、それが次々と解き明かされていった感じでした。医師の言葉を介して響の感情が理解できるようになった喜びと、自分の子どものことなのに、いちいち医師に確認しないと理解してあげられないのか......という虚しさが混在していました。
ただ、先生からは、「中学生になるくらいまで理解できないだろうし、パニックを起こすだろうから、まだ言わないで」と、口止めされました。変に混乱して、否定的な感情が育ってしまうと、自暴自棄になる心配があるというような説明でした。
先生には「ここには〝響くん探し〟に来てください」と提案されました。「足が悪い人が車椅子に乗る、耳が聞こえにくい人が補聴器をつける、目が悪い人がメガネをかける。響くんの障害は、頭の中の脳にあるので、見えないからわかりにくい。だけど、他の障害がある人たちと同じで、響くんに合う道具や方法は必ず見つかります」と言ってくださいました。
困っていることがわかりやすければ、周囲のサポートを受けやすいという面もあります。それは内部障害の方なども同じだと思います。
発達障害は、苦手なところやできないことが見た目にわかりにくいから、周囲の理解を得にくい。そこにジレンマを感じていた頃だったので、先生のこの言葉は、スーッと腹に落ちる感じでした。
病院へは響も一緒に通いました。
私が先生とお話をしている間、響は別の先生と一緒でした。響は「ママと電車で出かけると、大人の人が遊んでくれる」と思っていたようですが、それは言語聴覚士や作業療法士による「療育」でした。
撮影/木村直軌
次の記事「よい先生との出会いで気づいたことー母親が語る幼少期/岩野響『15歳のコーヒー屋さん』(9)」はこちら。
岩野 響(いわの・ひびき)
2002年生まれ。群馬県桐生市在住。10歳で発達障害のひとつ、アスペルガー症候群と診断される。中学生で学校に行けなくなったのをきっかけに、あえて高校に進学しない道を選び、料理やコーヒー焙煎、写真など、さまざまな「できること」を追求していく。2017年4月、自宅敷地内に「HORIZON LABO」をオープン。幼い頃から調味料を替えたのがわかるほどの鋭い味覚、嗅覚を生かし、自ら焙煎したコーヒー豆の販売を行ったところ、そのコーヒーの味わいや生き方が全国で話題となる(現在、直販は休止)。公式ホームページはこちら。「HORIZON LABO」コーヒー豆の通販はこちらで行っています。
『15歳のコーヒー屋さん』
(岩野 響/KADOKAWA)現在、15歳のコーヒー焙煎士として、メディアで注目されている岩野響さん。10歳で発達障害のひとつ、アスペルガー症候群と診断され、中学校に通えなくなったのをきっかけに、あえて進学せずコーヒー焙煎士の道を選びました。ご両親のインタビューとともに、精神科医・星野仁彦先生の解説も掲載。