「もしかして耳が聞こえていないの?」ー母親が語る幼少期/岩野響『15歳のコーヒー屋さん』(7)

「もしかして耳が聞こえていないの?」ー母親が語る幼少期/岩野響『15歳のコーヒー屋さん』(7) 7.jpg10歳で発達障害のひとつ、アスペルガー症候群と診断された岩野響さん。中学校に通えなくなったのをきっかけに、あえて進学しない道を選んだ15歳の「生きる道探し」とは?
著書『15歳のコーヒー屋さん』を通じて、今話題のコーヒー焙煎士・岩野響さんの言葉に耳を傾けてみましょう。

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「もしかして耳が聞こえていないの?」と聴力検査を受ける

なんとか通えるようになった保育園でしたが、響はできないことだらけでした。

お遊戯もできたことがありません。みんなと一緒に歌を覚えたり、踊ったりすることもできませんでした。おたのしみ会のような舞台に登場してきても、みんなから離れて、ひとりでポツンとしているような状態でした。

体育祭の行進も右手と右足が一緒に出ちゃうようす。右と左がよくわからないし、みんなとテンポを合わせることもできない。ハチマキをおでこに巻くこともできなくて、目に巻いちゃうから前が見えない。

響には、自分の体の輪郭を把握できていないようなところがあります。じつはこれも発達障害の特性のひとつで、空間認知が苦手です。だから、「ここに巻いて」と指示されても、瞬時におでこにハチマキを当てることができないのです。

保育士さんから「集中しちゃうとまわりの声が聞こえなくなって、集団活動ができなくなるなど、気になるようすがある」と言われたこともあります。

園庭で砂遊びに夢中になると、みんなが保育室に入っても、ひとり気づかず遊び続けて、「お部屋に入る時間だよ」と言われても、まったく反応しなかったそうです。「もしかして、耳が聞こえていないんじゃないか?」

そう心配して、耳鼻科で聴力検査を受けたこともあります。でも、結果は異常なし。

響の変わった行動やようすが気になりながらも、暴れて他の子を傷つけたりするわけじゃないし、みんなと少し違う個性なのかな?と受け止めていました。

年長になり、いよいよ就学が近くなってくると、保育士さんからは「たぶん、ふつうに小学校に行くのは難しいと思います」と言われました。当時は私たち夫婦だけでなく、一般的に「発達障害」がいまほど知られていない時代でした。

保育士さんも発達障害には詳しくありませんでした。なので、先生も響の症状を見抜けず、ただ「できない子」「努力していなくて、みんなについていけてない子」というようにとらえているようでした。

知的な遅れがあるわけではない。目も見えて、耳も聞こえている。なのに、人の話を聞かないのは、小さい頃からの親の育て方に問題がある。

先生の言葉には、そんなニュアンスも感じられました。

 

保育士さんに相談できなかった理由

響は21歳のときに出産しました。そのため、私が若いお母さんだから責められるのかな、と思うような出来事も多くありました。

保育園から帰ってきた響に、「今日はどうだった?」「楽しかった?」と聞いても、「どうだった」「楽しかった」とオウム返しをするだけ。「誰と遊んだの?」と聞いても、「誰と遊んだ」となるので、誰と仲がよいのか、お友達にどんな子がいるのか、保育園での毎日をどのようにして過ごしているのかよくわからない状態でした。

ならば送り迎えのときに直接、保育士さんにうかがえばよかったのですが、
「もうちょっと家でしっかりやってもらわないと困る」
「響くんが〇〇できないのは、お母さんのしつけができていないからかもしれませんよ」「愛情不足なんじゃないですか?」
などと言われることも多かったので、正直、保育士さんと顔を合わせるのがつらい時期もありました。

響ができないことを指摘されるのは、私の子育てを否定されているようだったし、同時に、こんなにも愛情をもって育てているのにどうして伝わらないのだろう、という思いがありました。そのため、保育士さんには相談することができませんでした。

この頃、主人からも「響は変わっている。このままで大丈夫なの?」と言われることが多くなりました。

「響は3月生まれの早生まれだから、4月生まれの子とは11か月も差があるでしょ。成長の違いがあって当然だよ」などと答えていましたが、私自身、「少し育ちがゆっくりなだけ、個性的なだけなんだ」と自分に言い聞かせていたようなところがありました。

そんなこともあって、小学校の就学前に入学先を相談できる「就学相談」も受けなかったし、響の発達のことについて、専門機関に相談に行くこともできませんでした。その必要性にも気づかなかったのです。


撮影/木村直軌

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岩野 響(いわの・ひびき)

2002年生まれ。群馬県桐生市在住。10歳で発達障害のひとつ、アスペルガー症候群と診断される。中学生で学校に行けなくなったのをきっかけに、あえて高校に進学しない道を選び、料理やコーヒー焙煎、写真など、さまざまな「できること」を追求していく。2017年4月、自宅敷地内に「HORIZON LABO」をオープン。幼い頃から調味料を替えたのがわかるほどの鋭い味覚、嗅覚を生かし、自ら焙煎したコーヒー豆の販売を行ったところ、そのコーヒーの味わいや生き方が全国で話題となる(現在、直販は休止)。公式ホームページはこちら「HORIZON LABO」コーヒー豆の通販はこちらで行っています。

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『15歳のコーヒー屋さん』

(岩野 響/KADOKAWA)

現在、15歳のコーヒー焙煎士として、メディアで注目されている岩野響さん。10歳で発達障害のひとつ、アスペルガー症候群と診断され、中学校に通えなくなったのをきっかけに、あえて進学せずコーヒー焙煎士の道を選びました。ご両親のインタビューとともに、精神科医・星野仁彦先生の解説も掲載。

 
この記事は書籍『15歳のコーヒー屋さん』からの抜粋です

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