テレビやネットにあふれるあやしげな健康情報や社会の思い込み。あなたはいつのまにか信じてしまっていませんか?
だまされないでください。
医師にして作家である鎌田實が50年近く医療に携わることで気づいた、健康のための王道をまとめた書籍『だまされない』で、「健康で幸せに生きるという目標」を達成するための技術を身に付けましょう。
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前の記事「「介護離職ゼロ」は言葉だけ/鎌田實「だまされない」」はこちら。
働き手を失いつつある日本
2016年時点で、15歳以上65歳未満の生産年齢人口は7600万人でした。この数字は20年前と比べて1割減と言われます。20年後の2036年の生産年齢人口は6200万人と推測されています。
日本は若い働き手がいないという大きな問題を抱える国になりました。だからこそ、65歳を超えてもなお働こうとしてくれる人たちに、正当な金銭が払われることが大事なのです。そしてこの人たちが、たまには旅をしたり、ジムに行って身体を鍛えたりする、そんな余裕を持てるようにすることが必要です。
働いて稼いでお金を使って遊ぶ、これで社会と経済がまわっていくのです。年をとったらお金を使わないようにじっと家にいるという高齢者ばかりでは、国の経済が動かなくなります。
それだけではありません。人間は動かなくなることによって、〈フレイル〉になります。それが昂じると精神的にも衰弱して「社会的フレイル」となり、寝たきりになるのです。現在ですら厳しい介護保険の問題が、ますます深刻になることでしょう。
最近、ハッピーリタイアメントという言葉を聞かなくなってしまいました。生産労働人口を減らし続ける日本は、その窮余の施策として定年後も働く空気をつくり出してきたのです。だまされてはいけません。
なぜ働くのか
働く理由はより自由になるためです。働くことで誰かの役に立っている自分の存在を実感するためです。働くこと自体がおもしろいからです。
それが実現できるなら、75歳になっても働いていて構わないと思います。
僕は69歳ですが、より自由になりたいと思い続けています。長年勤めている諏訪中央病院ではいまも予約外来や往診、ホスピスの回診をしています。そのほか、北海道十勝の本別町(ほんべつちょう)に毎月通って、地域包括ケアづくりをしています。また、2017年の秋には東京都町田市に「まちだ丘の上病院」を開設し、名誉院長にもなりました。
本が好きなので、寝る間も惜しんで原稿を書いています。10近い雑誌連載を持ちながら、次々に本を書くのはとても大変です。
2017年だけでも、『遊行を生きる』(清流出版)、『「わがまま」のつながり方』(中央法規出版)、『カマタノコトバ』(悟空出版)、『人間の値打ち』(集英社新書)、『忖度バカ』(小学館新書)が刊行されました。
このほかに共著や文庫の出版がありますので、毎月のように本を上梓しています。「月刊鎌田」とも言われています。
その合間を縫って、ジムで筋力アップをしています。冬になったらスキーで新雪のなかを雪煙を立てながら猛烈なスピードで滑り降りたいので、体力をつけるために必死でスクワットをしています。
それだけではありません。気力と体力を充実させながら、IS(イスラム国)の残党が残っているイラクの難民キャンプで子供たちの診察もしています。
いいリタイアメントができる社会になるべきだと思っています。でも、いいリタイアメントもできるけれど、おもしろいから仕事を続けたいという自己の選択で生きていける社会になるのもいいと思います。
選ぶのは自分。そんな自由な社会が来るといい。言葉だけではない、本当の意味での一億総活躍社会を期待しています。
※『毎日が発見』本誌に連載した記事はこちら。
1948年東京生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県茅野市の諏訪中央病院医師として、患者の心のケアまで含めた地域一体型の医療に携わり、長野県を健康長寿県に導いた。1988年に同病院院長に、2005年から名誉院長に就任。また1991年からチェルノブイリ事故被災者の救援活動を開始し、2004年からはイラクへの医療支援も開始。4つの小児病院へ毎月400万円分の薬を送り続けている。著書に『がんばらない』『あきらめない』『なげださない』ほか多数。
(鎌田 實/KADOKAWA)
社会は人をだます。人も自分をだます。実は自分の身体すらも自分をだましにかかってくる。そんな環境に生きながらも、幸せに生きるためにはなにを知るべきか、どうすべきか、どう考えるべきか。医師にして作家である鎌田實が、その答えに迫ります。健康問題から社会問題まで、翻弄される人々の目覚めを促す言葉の劇薬!