腰痛は多くの日本人を悩ませている病気で、その有訴者率(自覚症状のある人の割合)は男性で1位、女性で2位を占め、年齢が高いほど有訴者率も上がります(平成25年国民生活基礎調査)。それほど腰痛は身近な悩みなのです。
ヨーロッパでは"魔女の一撃"と言われる「ぎっくり腰」。個人差はありますが、何かの拍子で腰に"グキッ"とした痛みが走り、直後は日常生活もままならないことも。
この痛み、どのように対処したらいいのでしょう。予防法はあるのでしょうか。そこで日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科名誉指導医でもある東京都立多摩総合医療センター院長の近藤泰児先生にお話を伺いました。
前の記事「ぎっくり腰は病院に行くべき? 行かなくてもよい?/ぎっくり腰(3)」はこちら。
足のしびれ、発熱...他の病気が原因の可能性も!
ぎっくり腰は筋肉の損傷や疲労、椎間板(ついかんばん)の小さな亀裂や椎間関節の捻挫など軽いケガのようなものが原因です。2~3日強い痛みが続いても、だんだんと痛みが治まって日常生活ができるようになり、数週間で自然治癒します。
しかし、2~3週間たっても強い痛みが引かない場合や、腰の痛みは軽くなったけれど別の症状がある場合は、他の病気が原因である可能性も考えられますので、医療機関を受診しましょう。
受診する目安は(1)脚のしびれ (2)発熱、倦怠感 (3)改善傾向がない痛みや強い痛みなどです。
(1)脚のしびれ
脚がしびれてきたら「椎間板ヘルニア」や「坐骨神経痛」の恐れがあります。
椎間板は脊椎(背骨)を形成する椎体と椎体の間をつなぎ、負担を和らげるクッションのような役割を担います。椎間板の中心には水分を多く含むゼリー状の髄核があり、その周りをコラーゲンの束である線維輪が囲んでいます。加齢による変性や何らかの衝撃でその一部(または両方)が外に飛び出し、神経の根元を圧迫することで強い痛みが出るものを「椎間板ヘルニア」と言います。特に40代男性に多い病気です。
「坐骨神経痛」はお尻や太ももの裏側、ふくらはぎ、すねの痛みやしびれなどの症状のことを言います。腰椎(腰の骨)の下の方から足先まで延びている神経を坐骨神経といい、それが何らかの理由で圧迫されて痛みを生じるものです。原因にはさまざまな病気が考えられ、椎間板ヘルニアもその一つです。
(2)発熱、倦怠感
発熱や倦怠感を伴う場合は「感染症」の疑いがあります。ブドウ球菌や大腸菌が脊椎に感染して起こる「脊椎炎」、そのうち結核菌が脊椎に感染して炎症を起こす「脊椎カリエス」などがあります。これらの病気は進行するため、早めの受診が必要です。
(3)改善傾向がない痛みや強い痛み
強い痛みが続く場合は、「がんの転移」による可能性があります。がんの転移による痛みの場合は鎮痛薬を服用して一時的に痛みが引いても、再び痛みが起こるのが特徴です。肺がん、前立腺がん、乳がん、腎臓がん、多発性骨髄腫などは、がん細胞の脊椎転移による腰の痛みで見つかることも多いので、痛みが続いている場合は受診しましょう。
次の記事「救急車って呼んでいいの? ぎっくり腰になったときの対処法/ぎっくり腰(5)」はこちら。
取材・文/ほなみかおり
近藤泰児(こんどう・たいじ)先生
東京都立多摩総合医療センター院長、日本脊椎脊髄病学会認定脊椎脊髄外科名誉指導医、日本整形外科学会認定専門医・認定脊椎脊髄病医。1979年東京大学医学部卒業。都立駒込病院整形外科骨軟部腫瘍外科部長、東京都立府中病院(当時)副院長などを経て、2013年より現職。著書に『腰椎椎間板ヘルニア・腰部脊柱管狭窄症 正しい治療がわかる本』(法研)、『わかる!治す!防ぐ! いちばんやさしい腰痛の教科書』(アーク出版)など。