しゃがれた声が危険のサインかも。破裂したら死亡確率は8割!心臓の専門医による「大動脈瘤」を防ぐ方法

自覚症状がないまま大きくなることが多い、大動脈瘤(だいどうみゃくりゅう)。そのままにしておくと、破裂して命の危険に関わることも。今回は、帝京大学医学部附属病院 心臓血管外科主任教授の下川智樹(しもかわ・ともき)先生に、「大動脈瘤」についてお聞きしました。

しゃがれた声が危険のサインかも。破裂したら死亡確率は8割!心臓の専門医による「大動脈瘤」を防ぐ方法 2303_P074_01.jpg


どんな病気?

●体の中心を通り、心臓から送られた血液を全身に運ぶ、人体の中で最も太い動脈の一部がコブのように膨らむ病気

●大きく膨らむと突然破裂して大出血を起こし、命に関わる

●破裂すると亡くなる確率は8~9割

●人間ドックのCT(コンピューター断層撮影)検査、腹部エコー(腹部超音波)検査などで見つけられる

大動脈の太さは成人で約20~30mm、長さは約50cmあります。


治らないしゃがれ声はコブが膨らんだサイン

最近、声を出しづらくなることはありませんか?

しばらくして治ればよいですが、ずっとしゃがれたような声が続いている場合は「大動脈瘤」を患っているかもしれません。

心臓から全身へ血液を供給する大動脈の一部がコブのように膨らんでしまう症状です。

「大動脈瘤が破裂すると、激痛が走ると同時に命の危機に直結します。ただし、大動脈瘤は自覚症状に乏しい。胸の大動脈に起こる『胸部大動脈瘤』は、大動脈の周辺に声や飲み込みに関係する反回(はんかい)神経が走行しており、大動脈瘤でこれが圧迫されると、しゃがれた声が出るようになります」と、下川智樹先生は説明します。

動脈は、全身に血液を供給する血管で、網の目のように体の至るところに伸びています。

例えば、脳の動脈にコブが生じるのは「脳動脈瘤」といい、破裂するとくも膜下出血を引き起こし、やはり命の危険に直面します。

一方、大動脈瘤は、その名のとおり体で最も太い動脈である大動脈に生じます。

脳動脈が直径1~6mm程度に対し、大動脈は直径約20~30mmと太く、心臓につながった部分から腹部まで伸びた長さは約50cmにも。

胸の大動脈に生じたものを「胸部大動脈瘤」、おなかの大動脈に生じたものを「腹部大動脈瘤」と称します。

どちらもコブが破裂すると大出血を引き起こし、全身への血液供給が止まるため、命に関わる事態になるのです。

「腹部大動脈瘤では、声はしゃがれません。が、コブが大きくなるとおなかを触ったときにドクンドクンという動脈の拍動を感じることがあります」と下川先生。

おなかの異変に気付いたら内科を受診しますが、胸部大動脈瘤で起こりがちなしゃがれ声は、耳鼻咽喉科を受診しても「異常ありません」といわれることも。

心配な場合は、循環器内科や心臓血管外科を受診しましょう。


「大動脈瘤」の種類

しゃがれた声が危険のサインかも。破裂したら死亡確率は8割!心臓の専門医による「大動脈瘤」を防ぐ方法 2303_P075_01.jpg

生じる部位

胸部大動脈瘤 
上に向かう大動脈が弓のように下に曲がった部分に生じる。
大動脈の直径(通常約30mm)が45mmを超えると診断される。

主な症状...声がしゃがれる

腹部大動脈瘤
腹部に伸びた大動脈の終点ともいえる、左右に枝分かれする部分に生じる。大動脈の直径(通常約20mm)が40mmを超えると診断される。

主な症状...おなかに拍動を感じる、しこりのようなものを感じる

瘤の種類

囊状(のうじょう)大動脈瘤
大動脈の血管壁の一部だけが突き出るように膨らんだタイプ。瘤が小さくても破裂しやすいといわれる。

しゃがれた声が危険のサインかも。破裂したら死亡確率は8割!心臓の専門医による「大動脈瘤」を防ぐ方法 2303_P075_02.jpg

紡錘状(ぼうすいじょう)大動脈瘤
大動脈の一部の血管壁が全体的に膨らむタイプ。血管の直径が50mm未満なら、破裂する危険は数%とされる。

しゃがれた声が危険のサインかも。破裂したら死亡確率は8割!心臓の専門医による「大動脈瘤」を防ぐ方法 2303_P075_03.jpg

CTや腹部エコーで無症状でも早期発見

自覚症状がないまま大きくなることが多い大動脈瘤は、場所や形にもよりますが、直径50mm以上に膨らむと破裂するリスクが高くなるといわれています。

大きくなればなるほどその可能性は高く、50mm程度を「1」とした場合、70mm以上では約2~4倍、80mm以上では約3~5倍にもなると考えられています。

破裂して救急搬送された後に「大動脈瘤破裂」と診断されるケースも多いといいます。

また、瘤の種類は2つあり、1つは風船のように1カ所が大きく膨らむ「囊状大動脈瘤」です。

もう1つは血管全体が膨らむ「紡錘状大動脈瘤」で、「囊状大動脈瘤」の方が破裂しやす
く、50mm未満でも手術がすすめられるそうです。

「破裂のリスクが高い大動脈瘤の治療は、手術もしくはステントグラフト内挿術となります。前者はコブ部分の血管を取り除き、特殊な人工血管に置き換えます。後者はコブ部分の血管にカテーテルという細い管を通して筒状の医療機器を置き、コブに血液が流れ込んで膨らむのを防ぎます」と、下川先生は説明します。

コブの大きさによって、すぐに治療が必要なこともありますし、経過観察になる場合もあります。いずれにしてもコブが大きくなるのは避けなければなりません。

ただし、「一般的な健康診断の心電図検査や胸部X線検査で大動脈瘤を見つけるのは難しいです」と、下川先生。

「人間ドックのCT(コンピューター断層撮影)検査では無症状でも発見できます。腹部大動脈瘤は腹部エコー(腹部超音波)検査でも見つけることが可能です。コロナ禍に人間ドックの受診を控えたことで大動脈瘤が大きく膨らんだ人もいました。検診や人間ドックをきちんと受けていただきたいと思います」

取材・文/安達純子 イラスト/堀江篤史

 

帝京大学医学部附属病院 心臓血管外科主任教授 
下川智樹(しもかわ・ともき)先生

1992年、佐賀医科大学卒。榊原記念病院、佐賀医科大学胸部外科などを経て、2009年9月に帝京大学医学部心臓血管外科学講座主任教授、2019年4月に榊原記念病院成人心臓血管外科主任部長(兼任)に就任し、現在に至る。

この記事は『毎日が発見』2023年3月号に掲載の情報です。

この記事に関連する「健康」のキーワード

PAGE TOP