口腔機能の低下により、口腔内が不潔になったり乾燥したり、かむ力が低下するなどすると、咀嚼・摂食・嚥下障害が起こり、ひいては誤嚥性肺炎や要介護のリスクを招きます。今回は、東京都健康長寿医療センター病院 歯科口腔外科部長、自立促進と精神保健研究チーム研究部長の平野浩彦(ひらの・ひろひこ)先生に、要介護のリスクを高める「オーラルフレイル」についてお聞きしました。
※定期誌『毎日が発見』2023年1月号に掲載された記事を再配信しています。
要介護のリスクを高める
オーラルフレイル
「フレイル(※)」という言葉は近年よく耳にするようになりましたが、同じことは口の中でも起こります。
歯科医師の平野浩彦先生によると、「舌やのどが衰え、かむ力やのみ込む力が低下することを『オーラルフレイル』といいます。むせる、せき込む、のみ込めないなどの症状を発し、誤嚥性肺炎や要介護のリスクを招くので要注意です」
※加齢に伴い筋力が衰え、疲れやすくなって体を動かさず、さらに体力が低下する...という負の連鎖によって心身が衰える虚弱状態のこと。
むせる せき込む かめない のみ込みづらい は
オーラルフレイル=老化のサイン
口の些細なトラブル
オーラルフレイルが始まっている段階。滑舌低下、食べこぼし、かめない食品が増える、ムセるなどの症状により、さまざまな食品が食べられなくなり、食欲も減退。
口腔機能の低下
「口腔機能低下症」の段階。口腔内の不潔・乾燥、かむ力の低下、唇や舌の動きの衰え、咀嚼・嚥下機能の低下により、低栄養、サルコペニア(加齢による筋肉量の減少および筋力の低下)などのリスクが高くなります。
心身機能の低下
「摂食嚥下機能障害」と診断される段階。咀嚼・摂食・嚥下障害が起こり、栄養・運動障害、要介護状態に至ります。専門知識を持つ医師や歯科医師による治療が必要。
「オーラルフレイル」の可能性をチェック
出典:東京大学高齢社会総合研究機構 田中友規、飯島勝矢
3点以上の人はいますぐ、0〜2点の人はこれからの健康のために「長生きうがい」を行いましょう
・のみ込む動作に関わる口の中の筋肉を強化できる
・口の中の悪玉菌を減らす
・ 風邪や感染症予防に効果的
食べる力、話す力を強化し
感染症も防ぐ「うがい」
オーラルフレイルは、50代ごろから起こり始め、症状が進むと「口腔機能低下症」と診断されます。
その要因は、加齢などで舌やのどの筋肉が衰えてかみづらさ、のみ込みづらさを感じ、やわらかいものを食べるようになり、ますます咀嚼・嚥下機能が低下する...という負の連鎖。
歯が残っている人でも起こるので、油断は禁物です。
唾液の分泌も減るため、口内の悪玉菌が増えて歯周病や感染症を引き起こすほか、滑舌も悪くなり「話す力」も衰えます。
すると会話が減り、認知症やうつのリスクにも。
オーラルフレイルがあると、約4年後に認知症になるリスクは1・9倍、要介護認定を受けるリスクは2・4倍、総死亡リスクは2・1倍にもなります。
これを防ぐには「長生きうがい」が効果的。
「日常のうがいを少し意識しながら行うだけで対策となります。自分でできる『健康寿命を延ばす方法』として、ぜひ毎日続けて行ってください」(平野先生)
取材・文/岡田知子(BLOOM) イラスト/太田裕子