「胃の不調」を遠ざける生活習慣。胃もたれや胃痛の訴えから胃がんが見つかることも!

年末から年始にかけて食事の機会が増える中、胃もたれや痛みを感じる大人世代の方も多いのではないでしょうか。胃の不調には、胃がんなどの怖い病気が潜むこともあるので、油断は大敵。そこで今回は、東京医科大学 消化器内視鏡学 主任教授の河合 隆(かわい・たかし)先生に、よくある「胃の不調」を遠ざける生活習慣についてお聞きしました。

【前回】「流動性食道炎」「機能性ディスペプシア」かも? 胃の不調を見逃がさないセルフチェック

「また、年を重ねると食道から胃に食べ物などを送る動きが鈍くなるため、逆流した胃液を胃に戻しにくい。それも、逆流性食道炎の引き金になります」と河合先生は言います。

食道の動きが正常の場合、仮に胃液が逆流しても蠕動運動で胃の方へ戻すことができます。

しかし、加齢などで蠕動運動が弱くなると、逆流した胃液を胃に戻すことができません。

胃の粘膜は、胃酸に対する保護機能を備えていますが、食道の粘膜にはありません。

胃液に触れることで食道の粘膜が炎症を起こし、それが長く続くことで炎症を悪化させるのです。

食道がんのリスクが上がることもあるので注意が必要です。

「逆流性食道炎の主な原因は、(1)食べてすぐに横になる、(2)暴飲暴食の食べ方、(3)炭酸飲料・柑橘類・チョコレートなどの摂取、(4)肥満(胃の入口を開きやすくする)といったものです。

不快な症状が続くときは放置せず、早めに医療機関を受診し、診断と治療を受けることをおすすめします」と河合先生は説明します。

痛み止め薬の重複服用が胃潰瘍を招くことも

胃がんや胃潰瘍は、胃の中に棲息するピロリ菌が原因となることが多く、近年は除菌の普及で減少傾向になりました。

しかし、ピロリ菌除菌の結果、胃が健康を取り戻して胃液の産生量を増やすことで、「機能性ディスペプシア」や「逆流性食道炎」になる人が増えたとも考えられています。

「これまで内視鏡検査を一度も受けたことがない人は、まず内視鏡検査を受けましょう。すでに検査を受けてピロリ菌がいないと判明している人は、日常生活に気を付けることによって胃や食道を守りましょう」と河合先生。

適度な運動や腹八分目の食事、十分な睡眠、ストレス発散を心がけることが、加齢とともに衰える胃や食道を守ります。

日常生活の見直しは生活習慣病予防にもつながり、すでに実践している人もいるでしょう。

それでも胃の不調を招くことがあります。

「胃は薬の服用によってもダメージを受けます。ひざの痛みなどに処方される非ステロイド性抗炎症薬や、血液をサラサラにする抗血小板薬を重複して服用し、胃潰瘍になってしまうことも。ひどい場合は吐血し、胃の粘膜に穴が開くような事態も招きます」と河合先生は話します。

複数の医療機関に通っている場合は、1冊の「お薬手帳」を医師や薬剤師に確認してもらうことで、同じ作用の薬の重複服用を防ぎましょう。

《ピロリ菌を除菌すると逆流性食道炎を起こす?》

ピロリ菌を除菌すると胃酸の分泌が正常に戻ります。胃液の産生量も正常になるため、噴門(胃の入口)が開いたときに逆流しやすくなり、逆流性食道炎を起こしやすくなる場合があります。ただし、ピロリ菌を除菌したことによって必ず発症するわけではありません。

《市販薬の服用にも注意》

市販されている「イブプロフェン」などの解熱鎮痛薬(非ステロイド性抗炎症薬)も、胃潰瘍の原因になります。医療機関で薬を処方されている人は、重複して服用してもよいか注意が必要です。特にすでに胃の不調を感じている人は、自己判断は禁物。医療機関を受診して相談しましょう。

よくある「胃の不調」を遠ざける生活習慣

ストレスをためず、睡眠は十分に

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過度なストレスは胃の粘液を減らし、逆に胃液の分泌を増やすことで胃を荒らしてしまいます。ストレス発散を心がけ、十分な睡眠時間を確保することが胃を守ります。

食後にすぐ寝ない

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食後の胃酸分泌が活発な状態で寝ると胃液が逆流しやすくなります。食事は寝る2〜3時間前までに終えましょう。上半身を少し高くして寝るのも予防になります。

水をひと口飲んで症状を和らげる

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胃が健康な状態であっても、胃液が食道へ逆流することがあります。軽い胸やけなどの症状では、水をゴクンとひと口飲むと、食道が動いて胃液を胃に戻すことができます。

適度な運動をして太り過ぎない

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適度な運動は食道の動きを良くするため、逆流性食道炎の予防になります。また、肥満も逆流性食道炎の引き金になるため、運動による減量も効果的です。

症状別の治療法

機能性ディスペプシア

胃の働きを正常に戻すための消化管運動機能改善薬と、過剰な胃酸の分泌を抑えるための胃酸分泌抑制薬が処方されます。それでも症状が改善されないときは抗不安薬などで治療する場合も。

逆流性食道炎

生活習慣の見直しと、胃酸の分泌を抑えるP-CAB(カリウムイオン競合型アシッドブロッカー)による治療が一般的。他にもさまざまな薬が症状に合わせて処方されます。重症の場合は手術も。

胃潰瘍

胃酸の分泌を抑える薬や胃粘膜を守る薬によって症状を改善します。ピロリ菌がいる場合はピロリ菌除菌、吐血など重症例に対しては内視鏡的治療のほか、緊急手術が必要なこともあります。

取材・文/安達純子 イラスト/堀江篤史

 

東京医科大学 消化器内視鏡学 主任教授
河合 隆(かわい・たかし)先生

東京医科大学病院内視鏡センター部長・医学教育推進センター長兼任。1984年、東京医科大学卒。医学博士。2015年から現職。日本消化器内視鏡学会理事や日本消化器がん検診学会など数多くの学会役職を兼務している。

この記事は『毎日が発見』2022年12月号に掲載の情報です。

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