誰かの言葉にすぐ反応。SNS、ツイッター、ネット記事に常に反応......毎日、ムダな「反応」をしていませんか? すべての「苦しみ」は、自分が「反応する」ことから始まっています。それを理解することが、悩みを解決する第一歩です。
本書『反応しない練習』で、ブッダの超・合理的な考え方を学び、あなたも‟反応しない練習"を始めてみましょう。
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前の記事「「自分はダメだ」と落ち込むのも"心の反応"/反応しない練習(3)」はこちら。
その問題の「理由」に着目する
すべての悩みは「心の反応」から始まっている――それが一歩目の理解でした。ではなぜ、そのような反応をしてしまうのでしょうか。
「イヤなことがあって腹が立った」という場合、その怒りの反応の理由は明らかですね。「イヤなこと」です。
でも人生には、「なぜ自分がこんな反応をしてしまうのか、わからない」ことも、けっこうあります。人によっては、占い、カウンセリング、人生相談などを通して、さまざまな「理由」を探し回るのでしょうが、ブッダの智慧(ちえ)を使うと、一気にナゾが氷解することがあります。
たとえば、あなたが次のような悩みを抱えているとしましょう――。
最近、周りの人にイラ立つことが増えてきた。身近な人のやることなすことが、やたら目についてしようがない。家族のことは昔から気に入らなかったが、最近は職場の同僚や友人にも、不満が募ってきた。正直かなりのストレス・欲求不満が溜まっている。
一体、どうすれば解決できるのだろう――。
周囲に相談すると、こんな言葉が返ってきます。「気持ちはわかるけど、もっとラクに生きていいのでは?」「ないものねだりは、カラダに毒。ほかに楽しいことを考えようよ」たしかにその通りだと思うものの、あなたはどうもすっきりしません。日常に戻るとふたたび、「なぜかわからないけど、腹が立つ」状態に戻ってしまいます。さて、どう考えればよいのでしょうか。
ブッダが「激流」と表した人生のリアル
こうした、とらえどころのない悩みにも、たしかな解決策があります。それは、「反応を作り出している真の理由」にまで、さかのぼって考えることです。
人間が抱える不満や物足りなさの「理由」について、ブッダはこう語っています。
苦しみが何ゆえに起こるのかを、理解するがよい。苦しみをもたらしているものは、快(喜び)を求めてやまない"求める心"なのだ。―初転法輪経サンユッタ・ニカーヤ
ブッダが発見した"求める心" tanhâ(タンハー)とは、いわば「反応しつづける心のエネルギー」のこと。人の心の底に、生きている間ずっと流れている意識のことです。
"求める心"は、発生後"七つの欲求"に枝分かれします。現代心理学の知識を借りると、七つの欲求とは、(1)生存欲(生きたい)、(2)睡眠欲(眠りたい)、(3)食欲(食べたい)、(4)性欲(交わりたい)、(5)怠惰欲(ラクをしたい)、(6)感楽欲(音やビジュアルなど感覚の快楽を味わいたい)、そして、(7)承認欲(認められたい)です。
たしかに、これらの欲求は、私たちの心の中にありますね。ということは、人間の人生は、次のように理解することができます。(1)まず"求める心"があり、(2)それが"七つの欲求"を生み出し、(3)その欲求に突き動かされて、人は反応する。(4)ときには欲求を満たす喜びが、(5)ときには欲求がかなわない不満が生まれる。
そういうサイクルを繰り返しているのが、人間の人生である――。こうして"求める心"が作り出す、喜び、悲しみ、失望、不満にみちた人生を、ブッダは、氾濫するインドの河になぞらえて「激流」「奔流(ほんりゅう)」と言い表しました。私たちの日常を、よく喩(たと)ているのではないでしょうか。
"求める心"が、輪廻の洪水――満たされなさの繰り返し――を作っている。さまざまな欲求が、奔流となって、この身を突き動かしている。人間は、越えがたい欲望の汚泥に埋まっている。―スッタニパータ〈戦いの手〉の節
次の記事「心とは求め続けるもの、ということを受け入れる/反応しない練習(5)」はこちら。
僧侶、興道の里代表。1969年、奈良県生まれ。中学中退後、16歳で家出・上京。放浪ののち、大検(高認)を経て東大法学部卒業。現在、インドで仏教徒とともに社会改善NGOと幼稚園を運営するほか、日本では宗派に属さず、実用的な仏教の「本質」を、仕事や人間関係、生き方全般にわたって伝える活動をしている。著書に『悩んで動けない人が一歩踏み出せる方法』(WAVE出版)、『独学でも東大に行けた超合理的勉強法』(サンマーク出版)、『消したくても消えない「雑念」がスーッと消える本』(大和出版)がある。著者ブログはこちら。
(草薙龍瞬/ KADOKAWA)
すべての「苦しみ」は、自分が「反応する」ことから始まっています。それを理解することが、悩みを解決する第一歩です。その事実と、具体的な方法論を教えてくれるのは、2500年前の悟った人、ブッダ(原始仏教)。本書では、原始仏典を紐解きながら、現代人の人生に活かせる合理的な考え方を紹介します。