大人の中耳炎は痛みや発熱を伴わず、難聴の症状が現れるため、老人性難聴と間違われやすい病気です。しかも種類によっては、重篤な事態につながることもあります。そこで今回は、帝京大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科 教授の伊藤 健(いとう・けん)先生に「中耳炎を遠ざける生活習慣や治療法」についてお聞きしました。
【前回】大人でもなる「中耳炎」セルフチェック! 「難聴」と間違われやすいので要注意
放置で周辺の骨まで溶け
重篤な事態を招く
「真珠腫性中耳炎は、真珠のようなかたまりが、周辺の骨を溶かしながら大きくなります。中耳周辺には内耳、脳などの重要な器官があるため、骨が溶けて進行すると、強度の難聴、めまい、顔面神経麻痺などにつながります」と伊藤先生は説明します。
真珠腫性中耳炎の治療法は、早めに真珠腫を手術で取り除き、溶けた骨を再建するのが基本。
伊藤先生は、再生軟骨を用いた組織再建手術など最先端研究も行っています。
一方、先述の滲出性中耳炎の治療は、薬の服用や、鼓膜を切開して滲出液を排出する、さらには、チューブを置いて中耳腔の換気をよくする外科的治療など、症状に合わせて行われます。
また、鼓膜に孔が開いてしまっている慢性中耳炎の治療は、鼓膜の孔を塞ぐ外科的な治療(鼓膜形成術・鼓室形成術)を行うのが一般的といえます。
「慢性中耳炎は、鼓膜の孔を塞ぐために外科的な治療が必要ですが、滲出性中耳炎や真珠腫性中耳炎は、症状が軽ければ薬や経過観察で済むこともあります。ただし、突然、進行してひどくなる患者さんもいるので、通院による検査は欠かせません。放置しないことが重要になります」と伊藤先生はアドバイスします。
鼓膜の外側から耳の穴までの外耳でも、「悪性外耳道炎」(頭蓋底骨髄炎)という病気によって、周辺の骨や軟骨に炎症が広がって溶けてしまうことがあるそうです。
高齢の方や免疫力が低下している人は、悪性外耳道炎も起こしやすいので注意しましょう。
老人性難聴と間違いやすい中耳炎に注意を
老人性難聴の症状と間違われやすく、中には、中耳周辺の骨まで溶かす病気もある慢性中耳炎ですが、予防は難しいといえます。
急性中耳炎は、風邪などをひいたときに鼻を強くかみ過ぎないといった予防法が一般的です。
が、慢性中耳炎は、風邪をひいていなくても発症します。
「急性中耳炎をきっかけに慢性中耳炎を発症することが多いので、過去に急性中耳炎の経験がある方は、耳の違和感に注意していただきたい。耳の違和感や聞こえにくくなったと感じたら、ご自宅近くの耳鼻咽喉科で原因を突き止めましょう」と伊藤先生。
慢性中耳炎や滲出性中耳炎で聞こえにくくなった状態は、補聴器を装着すると聞こえがよくなるため、「難聴は年のせい」と勘違いしやすいので注意が必要です。
自己判断ではなく、耳鼻咽喉科の医師の診断をきちんと受けることが重要になります。
「慢性中耳炎の治療を受けることで聴力が回復される方もいます。老人性難聴は、聴覚に関わる細胞の死滅が原因ですが、慢性中耳炎は中耳の炎症や鼓膜の変形などで聞こえにくくなります。そのため、慢性中耳炎の治療後に聴力が蘇ることがあるのです」と伊藤先生は説明します。
耳の違和感を放置することなく、耳鼻咽喉科の受診といった正しい対処法で中耳炎を退けましょう。
《私たち世代に見られることがある「悪性外耳道炎」とは》
耳かきなどをきっかけに外耳(鼓膜の外側から耳の穴の部分)に起こった炎症が悪化した結果起こる病気です。細菌感染が進行し、周辺の骨や軟骨、神経にも悪影響を及ぼします。強い耳の痛みが特徴です。
中耳炎を遠ざける生活習慣&治療法
【生活習慣】
鼻を強くかみ過ぎない
鼻を強くかむと、耳管から鼻水に含まれる細菌などが中耳へ侵入しやすくなります。
耳かきのし過ぎに注意
外耳炎は耳かきのし過ぎが原因のことが多いため、「耳かきはしない」のが基本です。どうしても行いたい場合でも耳の穴から1cmまでを綿棒でやさしくケアするにとどめましょう。
免疫力キープ
風邪などで急性中耳炎になることがあるため、感染症予防が大切。体力も維持して免疫力のキープを。
気圧の変化に注意
気候や乗り物による気圧の変化で耳管が閉じ、耳詰まり感などがひどくなることがあるので注意しましょう。
その他に
聞こえにくくなった、耳が詰まった感じがするなど違和感があるときは早めに耳鼻咽喉科へ。
【治療法】
抗菌薬など
急性中耳炎は抗菌薬、滲出性中耳炎は気道の粘膜を調整する薬が症状に合わせて処方されます。
チューブや空気の治療
滲出性中耳炎では、中耳腔の換気のために、鼓膜のチューブ留置や鼻から空気を入れる治療を行います。
外科的治療
慢性中耳炎では鼓膜形成術や鼓室形成術、滲出性中耳炎では鼓膜の切開、真珠腫性中耳炎では真珠腫の摘出と溶けた骨の再建手術が行われます。
取材・文/安達純子 イラスト/堀江篤史