大人の中耳炎は痛みや発熱を伴わず、難聴の症状が現れるため、老人性難聴と間違われやすい病気です。しかも種類によっては、重篤な事態につながることもあります。そこで今回は、帝京大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科 教授の伊藤 健(いとう・けん)先生に「難聴」と間違われやすい病気「中耳炎」についてお聞きしました。
ご存じですか? 「中耳炎」
耳の中にある「中耳」という部分に、細菌やウイルスによる炎症が起こったり、うみがたまったりする病気
【セルフチェック】
□ 耳が痛い
□ 聞こえが悪い
□ 鼻水が出る
□ めまいがする
□ 耳が詰まっている感じがする
□ 自分の声が耳の中で響く
□ あくびをしたときにポコポコと音がする
□ 耳の中で水のようなものが動いているように感じる
一つでも当てはまるものがある場合は耳鼻咽喉科で診察を受けましょう。
慢性中耳炎の場合は聞こえが悪くなることが多い。
片耳の異常も見逃さないで!
鼓膜に開いた孔などで耳が遠くなる
年を重ねるとテレビの音などが、聞こえにくくなることがあります。
国内の老人性難聴は65歳以上で3人に1人、75歳以上で約半数と推計されるほど、身近な老化現象の一つです。
ですが、耳が詰まったような感じや、耳の中から耳だれ(液体)が出てくるときには、老人性難聴以外の病気が疑われます。
「大人の中耳炎は痛みや発熱を伴わず、難聴の症状が現れるため、老人性難聴と間違われやすいといえます。中耳炎の種類によっては、重篤な事態につながることがあるので注意が必要です」と、伊藤健先生は警鐘を慣らします。
私たちの耳はこうなっています
耳の穴から鼓膜までを外耳、鼓膜から内側の中耳腔という空間までを中耳、三半規管より奥を内耳といいます。中耳炎は中耳に生じる炎症が引き金です。
主な症例1:痛みがある「急性中耳炎」
鼓膜が外側へ中耳腔にうみがたまる
耳管から侵入した細菌により中耳に炎症が起こり、激しい痛みが伴います。うみがたまり鼓膜に小さな孔が生じると、耳だれ、難聴などの症状も。
主な症例2:ほぼ痛みがない「滲出性中耳炎」
滲出液がたまり、内部の圧力が下がる
耳管が腫れることで滲出液が排出されなくなって中耳腔にたまり、鼓膜が内側にへこむようになります。多くの場合、両耳同時に難聴の症状が現れるのが特徴です。
何度も繰り返すと孔が塞がらなくなる
中耳炎は、鼓膜の奥の中耳に炎症が起こる病気で、急性と慢性に大きく分けることができます。
例えば、風邪をひいたときに発症しやすいのは急性中耳炎です。
耳と鼻は、空気の通り道の耳管でつながっています。
風邪をひいて鼻水や鼻詰まりを起こしたときに鼻をかむと、いつもは閉じている耳管が開き、鼻水に潜む細菌が中耳に侵入して炎症を起こすことがあるのです。
「急性中耳炎は、耳管の長さが短い小児に発症しやすい病気です。大人は数が少ないともいえます。ただし、子どもの頃に急性中耳炎を繰り返した人や、急性中耳炎で鼓膜に孔が開いた状態が続いている人は、慢性中耳炎のリスクが高くなります」。
急性中耳炎で鼓膜に孔が開いても、すぐに閉じる再生能力が鼓膜にはあります。
ところが、何度も急性中耳炎になって孔が開くことを繰り返すうちに、再生能力が下がり、孔が塞がらなくなることがあるそうです。
結果として、中耳の炎症が慢性化するようになるのですが、慢性中耳炎では急性中耳炎のような痛みはなく、「聞こえにくくなった」といった老人性難聴と間違われやすい症状になります。
「急性中耳炎の後に発症しやすい別の中耳炎としては、滲出性中耳炎が代表格です。耳管が腫れて中耳の液体を排出することができなくなり、その滲出液が中耳腔にたまって聞こえにくくなるのです。痛みや発熱、耳だれもないので、大人で発症すると、やはり、老人性難聴と間違われやすいといえます」と伊藤先生。
滲出性中耳炎は、中耳腔の空気がなくなることで、外圧に押されて鼓膜が内側にへこみ、聞こえにくくなるそうです。
この状態を放置すると、真珠のようなかたまりを形成する真珠腫性中耳炎になり、重篤な事態にもつながります。
取材・文/安達純子 イラスト/堀江篤史