目の前を蚊のような浮遊物が飛んでいるように見えた経験はありませんか? この「飛蚊症」は、硝子体に濁りが生じることから起こり、場合によっては失明の危険性さえあります。そこで今回は、埼玉医科大学病院眼科診療部長、同大学医学部眼科教授の篠田 啓(しのだ・けい)先生に「飛蚊症」についてお聞きしました。
主な原因
加齢による生理的な現象
網膜裂孔、網膜剥離 、硝体出血、ぶどう膜炎など目の病気
主な治療法
加齢による生理的な現象の場合は経過観察
目の病気の場合は、病気に応じた治療(レーザー光凝固術、硝子体手術など)が必要
浮遊物の正体はどこにある?
光は目の中で硝子体を通過して網膜で感じ取られる。
「飛蚊症」は、目の前を蚊などの「浮遊物」が飛んでいるように見える症状をいいます。
目の前の浮遊物の正体は眼球内の硝子体にあります。
何らかの原因で硝子体に濁りが生じると、その影が網膜にうつり、飛蚊症の症状(下図参照)が現れます。
こんな症状や特徴がある
● 蚊のほか、水玉、糸くずなど人によってさまざまな形のものが見える。
● 色は黒や透明など人によって違う。
● 1個から数個、時に多数のこともある。
● 視線を動かすと目と一緒に移動してくる。
● 暗い所では気にならない。
ゴマ状
虫状
カエルのたまご状リング状
糸くず状
光視症
飛蚊症と併発することが多い。視野の一部に一瞬光が走って見える症状をいう。
目の病気のサイン
□ カーテンがかかったよう、視力低下→網膜剝離
□ 目の前に墨がかかったよう→硝子体出血
□ 光がいつもよりまぶしい、目が痛い、視野がかすむ、目が充血→ぶどう膜炎
※放置していると失明に至るので、早めに受診すること。
網膜に近いほどはっきりと見え、濁りの大きさや量によって見え方も異なります。
濁りは生理的な原因によるものと病気が原因によるものの2種類あります。
前者は40歳を過ぎた頃から、硝子体の組成に変化が生じることで起こる加齢現象で、多くは後部硝子体剥離をきっかけに自覚されます。
基本的に治療の必要はありませんが、これを引き金に6~19%の割合で網膜裂孔を起こすことがあります。
放置していると網膜剥離に進展して失明することもあるので、経過観察(年1回程度)がとても重要です。
「浮遊物の数が増えた」「視力が落ちた」など、症状に著しい変化が現れた場合は、すぐに受診してください。
後部硝子体剥離の出現は、中等以上の近視の人はそうでない人に比べて、10年ほど早まるといわれています。
近視の人は眼球の奥行きが長く伸びていて、硝子体の収縮が早く始まって濁りが生じやすいからです。
さらに硝子体が収縮して前方へ移動するときに癒着部分の網膜への負担も大きく、網膜剥離になりやすくなります。
近視の人の飛蚊症は要注意です。
また、白内障の手術を受けた人も術後1年以内に後部硝子体剥離が出現することがあります。
病気が原因の場合は、網膜裂孔、網膜剥離、硝子体出血、ぶどう膜炎が考えられます。
加齢による硝子体の変化
飛蚊症の原因のほとんどは加齢による硝子体の組成の変化。
離水
ゼリー状の硝子体が液状に変化し、空隙ができる。空隙が大きくなり硝子体が収縮する。
後部硝子体剝離
硝子体の収縮と前方への移動で硝子体が網膜からはがれる。飛蚊症で最も多い原因。
網膜剝離
網膜裂孔を放置すると、多くはその後裂孔から液体状の硝子体が網膜の後ろに入り込む。
眼底検査で病気の確認
医師の診断を仰ぐこと
私たち世代で初めて症状が出た場合は、必ず眼科を受診し、後部硝子体剥離の有無、引き金になる病気(網膜裂孔など)の有無などを確認してもらうことが重要です。
通常、眼底検査で散瞳薬を用いて、瞳(瞳孔)を大きく開き、目の奥の広い範囲を調べます。
瞳孔が開いた状態は4~5時間持続するので、車の運転はできません。
病気が原因の場合は、病気に応じた治療が必要になります。
最近は加齢現象が原因でも生活に支障がある場合は、硝子体手術やレーザー治療などの選択肢も出てきました。
ただし細菌感染など合併症のデメリットもあるので、医師とよく相談して治療方針を決めることが大切です。
《目の病気の治療法》
網膜裂孔
レーザー光線で裂孔の周囲を焼き固める網膜光凝固術を行い、進行を止める。
治療時間は約5~10分。
網膜剝離
はがれた網膜を元の位置に戻す網膜復位手術や硝子体手術などを行う。
入院が必要。
硝子体出血
出血が多い場合は、硝子体手術で出血や濁りを取り除く。
正常な硝子体も切除するため、合併症のリスクも。
症状によっては原因の部位にレーザーを当てる光凝固法を行う。
糖尿病や高血圧が原因の場合は原因となった病気の治療も必要。
ぶどう膜炎
ぶどう膜に細菌やウイルスが侵入したり、アレルギー反応によって炎症が起こるので、抗菌剤や抗ウイルス剤などの内服薬や点眼薬で治療する。
取材・文/古谷玲子(デコ) イラスト/片岡圭子