病気のサインを見逃さないで! 痰が出る...受診前に確認したい「痰のチェックポイント」

何気なくのどの方から出てくる痰ですが、実はさまざまな病気のサインが隠れています。慢性的な場合はもちろん、色があったり、悪臭があったりする場合は要注意! そこで今回は、横浜市立大学大学院 医学研究科呼吸器病学 主任教授の金子 猛(かねこ・たけし)先生に「痰」についてお聞きしました。

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主な役割(痰のもとになる気道分泌物)

異物や病原菌を粘液層で絡め取って気道外に排出する

主な対処法(長引く場合)

  • 原因を明確にして、適切な治療をすることが基本(肺結核や肺がんなど重大な病気が原因のことも)
  • 細菌感染が原因なら病原菌に有効な抗菌薬を服用
  • 去痰薬や咳止め薬は使い方に注意

痰のもとになる気道分泌物は気道を乾燥から守るほか、呼吸によって吸い込まれた異物や微生物(細菌やウイルス)などの侵入をブロックする役割があります。

細菌による感染や慢性的な病気があると気道に炎症が生じて、気道分泌物が過剰になり、痰として排出されます(下図参照)。


痰はこうして出る

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吸い込んだ空気は気道(気管・気管支)を通って肺の内部に届けられる。気道には線毛という細い毛が生えていて、表面は気道分泌物で覆われている。

【気道が正常の場合】病気のサインを見逃さないで! 痰が出る...受診前に確認したい「痰のチェックポイント」 2110_P091_02.jpg

気道に入り込んだ異物や微生物は気道分泌物に絡め取られ、線毛の連動でのどの方向に移動する。健康なときは少量で、気付かないうちに飲み込んでいる。

【気道に炎症がある場合】

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気道分泌物の分泌量が過剰になって線毛運動による排除が追いつかなくなり、咳をすることによって、痰として口から吐き出される。


かぜをひくと一過性に痰が出ることがありますが、多量に出たり長引いたりする場合は要注意です。

気管支炎や肺炎のほか肺結核や肺がんなどの恐れもあります。

慢性的に痰が出る場合は慢性閉塞性肺疾患(COPD)や喘ぜん息そくなどが疑われます。

COPDはたばこの煙などの有害物質が原因で肺や気道に炎症を起こし、呼吸がしにくくなる病気です。

喫煙歴のある人のほか受動喫煙で発症することもあります。

また中高年の女性に増えているのが肺非結核性抗酸菌症です。

結核菌に類似した菌の感染で起こる慢性の呼吸器疾患で、咳や痰、体重減少や全身倦怠感などの症状が現れます。

結核と違って人から人に感染することはなく、土や水など環境中の菌に感染することで発症します。

加齢とともにリスクが高まるのが、誤嚥性肺炎です。

老化による嚥下機能や免疫力の低下、不衛生な口腔環境などが原因です。

誤嚥した飲食物や唾液から口の中の細菌が気道に入り込み、肺に炎症を起こします。

特に就寝中に起こる唾液の誤嚥(隠れ誤嚥※1)に要注意です。

また高齢の場合、発熱、咳、痰といった典型的な肺炎の症状が現れにくいのも特徴です。

コロナ禍で外出を控えている現在、身体活動が減り、嚥下機能が低下している人が多くいます。

※1 高齢者の肺炎の多くが隠れ誤嚥による誤嚥性肺炎。予防には就寝前に歯磨きをして口腔内を清潔に保つことが有効。

痰が出るには理由がある 色がある痰は要注意!

痰が2週間以上続く場合は、医療機関を受診します。

その際、痰の状態を観察しておくことが重要です(下のチェックポイント参照)。

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血が混じっている場合は、すぐに受診してください。

原因を調べるには喀痰検査(※2)、胸部のX線検査・CT検査などを行います。

原因を明確にし、必要な治療を組み立てます。

例えば細菌感染には抗菌薬、喘息やCOPDには吸入ステロイド薬や気管支拡張薬などを使います。

市販の去痰薬は痰を出しやすくする薬で根本治療にはなりません。

咳止め薬は痰を伴う咳の場合は痰をためてしまい悪化させます。

痰を汚物と思わず、貴重な診断材料の宝庫として、よく観察することが大切です。

※2 痰を採取して悪性細胞が含まれているか顕微鏡で観察したり、細菌などの微生物の存在を調べる検査。

こんなときは要注意!

疑われる病気

・黄・緑色の痰が出る
→細菌感染(肺炎、気管支炎)、肺結核

・卵が腐ったような悪臭がある
→肺膿瘍(肺化膿症=細菌によって肺の組織が破壊され、膿が溜まる)

・夜間から早朝にかけて出ることが多い
→喘息

・慢性的に痰が出る
→慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、肺非結核性抗酸菌症、肺結核、気管支拡張症(=慢性気道感染などによって気管支の壁が破壊される)

・血が混じっている
→気管支拡張症、肺がん、肺結核、肺非結核性抗酸菌症、肺炎、心不全 

・鼻水がのどまで流れ落ちている
→慢性副鼻腔炎、鼻炎

《誤嚥性肺炎にご注意!》

高齢の場合、発熱、咳、痰といった典型的な肺炎の症状が現れにくい。

取材・文/古谷玲子(デコ) イラスト/片岡圭子

 

<教えてくれた人>
横浜市立大学大学院 医学研究科呼吸器病学 主任教授
金子 猛(かねこ・たけし)先生
1986年山形大学医学部卒業。92年横浜市立大学大学院医学研究科修了。「咳嗽・喀痰の診療ガイドライン2019」作成委員会副委員長(日本呼吸器学会より発刊)。

この記事は『毎日が発見』2021年10月号に掲載の情報です。

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