「親の金を盗むなんて・・・!」最近お金に執着するようになった母/認知症の人が見ている世界

大切に管理したはずの物がなくなってしまったため、不安と焦りを感じています

認知症の初期に多く見られるのが「物盗られ妄想」です。

財布や判子、通帳など大切な物を盗まれたと思い込み、介護者や家族に「盗んだでしょう?」と疑いの目を向けたり問いつめたりするため、介護する側はとても疲弊してしまいます。

物盗られ妄想が起こるのは、多くの場合、本人がしまった場所を忘れてしまうことが原因です。

記憶の欠落が増えると、本人は「何かがおかしい」と感じ、「自分は認知症になりたくない」「しっかりしている自分を取り戻そう」と、とても不安な気持ちの中で、自分自身でどうにかしようと懸命になっています。

「家族に迷惑はかけまい」「自分はまだまだ大丈夫」と自分にいい聞かせ「大切な物は自分できちんとしまっておこう」とがんばっているのに物がなくなってしまうのです。

そうなると、「自分がなくしたはずはないから、ほかの誰かが盗んだのではないか」という被害妄想に至ってしまいます。

自分の持ち物や、きちんと管理しておきたい物が、知らぬまに突然消える感覚は、認知症の有無にかかわらず誰もが不安になりますし、すぐに解決したいという思いが出てきます。

介護者や家族からすれば、盗みを疑われるのはショックなものですが、「盗んでいない」と反論すると、「ますます疑わしい」と妄想が強くなってしまうことがあります。

認知症の人は、覚えることが苦手でも感情は残っています。

ケンカをしたり怒られたりしたことは忘れても、「この人は嫌だ」「この人は泥棒だ」という不快感が残るため、周囲の家族への「不信」につながってしまいます。

まずは、本人が強い不安を抱えていることを踏まえ、できるだけ心に余裕を持って対応してください。

いっしょに話をしながら探して、探し物が見つかったらいっしょに喜ぶなど共感するようにしましょう。

大切な物ほど、「ここなら安心」と特別な場所にしまうので、ソファーやベッドのすきま、タンスや引き出しの奥など、滅多にしまわないようなところにも目を配って探してみてください。

対応のポイント

●盗みを疑われても、本人が不安な気持ちでいることを忘れないようにしよう。

●見つからないときは話をしながらいっしょに探すなどして、心に余裕を持って対応しよう。

●大切な物ほど思わぬ場所から出てくることがある。

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【次回】「1000円で足りますか?」このお客さん、計算できないのかな?/認知症の人が見ている世界

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認知症ケアに携わってきた著者が、実際に接してきた中で気づいたケーススタディがマンガでわかりやすく解説されています

 

川畑智(かわばた・さとし)
理学療法士、熊本県認知症予防プログラム開発者、株式会社Re学代表。熊本県を拠点に、病院や施設における認知症予防や認知症ケアの実践に取り組む。

 

遠藤英俊(えんどう・ひでとし)
聖路加国際大学病院臨床教授、元国立長寿医療研究センター長。認知症や医療介護制度などを専門とし、国や地域の制度・施策にもかかわりが深い。

 

浅田アーサー(あさだ・あーさー)
マンガ家。

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『マンガでわかる! 認知症の人が見ている世界』

(著:川畑智、監修:遠藤英俊、マンガ:浅田アーサー/文響社)

認知症って、何もかもがわからなくなるわけではないの? 認知症の人が見ている世界を知り、「なぜ?」を解決できると、介護はもっとラクに。認知症ケアの第一人者がひも解いた、マンガでわかる介護メソッドです。

※この記事は『マンガでわかる! 認知症の人が見ている世界』(著:川畑智、監修:遠藤英俊、マンガ:浅田アーサー/文響社)からの抜粋です。
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