全国初の専門外来「嗜好品外来」が注目を集めている戸田中央総合病院(埼玉県戸田市)が、11月12日、オンライン市民公開講座「コロナ禍を健康に"楽しく"生き抜く 嗜好品外来セミナー」を開催。 "コロナによる不調"という新たな原因で起こる「生活習慣病」の予防にどのように嗜好品を活用したらよいのか、嗜好品外来担当の椎名一紀先生が講演しました。
コロナによる不調が引き起こす「在宅習慣病」とは?
「新型コロナウイルスの感染拡大により、私たちの生活は大きく変化しました。外来では、外出自粛やテレワークなどによってストレスがたまり、コロナ鬱のような症状を起こしている人も見受けられます。また、ライフスタイルの変化によって体調にも変化が出ている可能性も。運動不足や食生活など生活習慣の乱れが原因となり、 "在宅習慣病"とも呼べる方が増えているように感じます」と椎名先生。
さらに「在宅習慣病とは、生活習慣の乱れにより、高血圧や脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病になってしまうきっかけのこと。不調を感じても、感染拡大の不安から病院に行きにくいという人も多く、中には治療中にも関わらず薬を中断してしまう人もいます。だからこそ、自分で行う体調管理がより大切です」と、呼びかけました。
さらに椎名先生はこう指摘します。
「在宅習慣病の主な要因は、食の二極化と、体を動かす機会の減少。そして人との会話機会の減少です」
以前よりもきちんと食の管理をするようになった人がいる一方、食生活が乱れたり、家庭内でのアルコール摂取量が増えてしまう人もいると言います。
「高血圧や心疾患、糖尿病、肥満などがある方は、新型コロナウイルスにかかると重症化しやすいという報告が出ています。ですから、日々の工夫で在宅習慣病を予防することが重要です」
手軽に食べられる嗜好品で生活習慣病を予防
在宅習慣病の予防には、手軽に食べられる嗜好品を活用できると椎名先生。
生活習慣病予防に効果のある食品には、ポリフェノール系とオメガ3脂肪酸系があります。
ポリフェノール系は、チョコレートや赤ワイン、緑茶、コーヒー。オメガ3脂肪酸系は、鯖缶や青魚、ナッツ類などが代表的。
これらをいかに生活に取り入れて、長く続けていくかということが重要だと言います。
「脂肪酸にはさまざまな種類がありますが、血管系の予防になるのがオメガ3脂肪酸。動脈硬化を防ぎ、コレステロール値や中性脂肪を下げ、心臓病やがんのほか、脳卒中、糖尿病、高血圧、肥満などの生活習慣病予防に効果を発揮することが報告されています。青魚に多く含まれますが、もう少し手軽に摂るには、植物性の食品をうまく使うといいでしょう。中でもくるみは、ナッツ類の中で最もオメガ3脂肪酸を多く含む食品。一つかみで、1日分を十分摂取できます」
ポリフェノールを嗜好品で手軽に摂る方法には、緑茶やコーヒー、赤ワインといった飲み物があります。
「循環器疾患の予防には、緑茶やコーヒー、アルコール、いずれも適量であればいい効果を示すとされています。ただし、緑茶やコーヒーに含まれるカフェインには血圧を上げる作用もありますので、高血圧に対しては注意が必要です」
カカオ含有量70%以上で、高血圧や高血糖が改善!
高カカオチョコレートも、ポリフェノールの摂取におすすめだと椎名先生。
「高カカオチョコレートとは、カカオの含有量が70%以上のチョコレートのことをいいます。高カカオチョコレートに含まれるカカオポリフェノールには、在宅習慣病の予防を期待できるうれしい効果がたくさんあることが分かっています」
愛知県蒲郡市で行われた実証研究では、高カカオチョコレートを1日約25g、4週間摂取したところ、チョコレートの摂取前後で体重やBMIの数字に特に変化は出ませんでしたが、高血圧の人ほど、血圧が大きく低下。
また、HDL(善玉)コレステロールの上昇のほか、健康調査アンケートでは、多くの項目で健康度がアップ。
とくに精神的な健康度がアップしていることが分かりました。
うつ病やアルツハイマー型認知症、記憶や学習などの認知機能と関連するといわれているBDNF(脳由来神経栄養因子)の量も増加しました。
「高カカオチョコレートは、閉経後の女性に起こる体の不調に対して改善傾向があることも分かっています。閉経後の女性にカカオポリフェノールを4週間摂取してもらったところ、摂取開始前に比べ、糖尿病の指標であるインスリン抵抗性に改善傾向が認められました。また、最高血圧・最低血圧ともに低下。LDL(悪玉)コレステロールも有意に低下しており、糖代謝や脂質代謝の異常、高血圧の改善が見られました。これらのことから、高カカオチョコレートには、閉経後の女性に起こる体の不調を予防することが期待できます」
高血圧や高血糖、高コレステロールを改善することは、動脈硬化を抑制し、心疾患・脳卒中などのリスクも低下させます。
「カカオポリフェノールを多く含むチョコレートが、健やかな時間を増やす一助になるかもしれません」
嗜好品を効果的に摂って、生活習慣病を予防
「嗜好品は、楽しみながら毎日摂り続けることが大事」と、椎名先生。
無理なく生活に摂り入れる方法を教えてくれました。
「緑茶なら1日5杯程度。温かいものでも、ペットボトルのものでもかまいません。コーヒーは、1日1~2杯。赤ワインは1日1~2合ですが、必ず休肝日を設けるようにしてください。ナッツは1日一つかみ(25~30g)ほど食べましょう。高カカオチョコレートは、1日約25g(5かけら程度)を、朝、昼、午後と小分けにして摂ることで、血中のカカオポリフェノールが一定に保たれます。ただし、寝る前はカロリーの問題があるのでおすすめしません。また、カカオの含有量は、濃い方がいいというデータもありますが、90%以上など濃度の高いチョコレートは苦手という人もいるでしょう。そうであれば、70%のもので十分です」
カカオ含有量90%以上の高カカオチョコレートを、毎日、無理なく摂取する方法を椎名先生が紹介しました。
<納豆×高カカオチョコレート(画像左)>
納豆にタレと辛子をかけて混ぜ、刻んだチョコレートをかけます。お好みでネギをかけてもOK。「納豆のネバネバ感とチョコのパリパリ感が楽しく、お酒のおつまみにもおすすめ」(椎名先生)。
<かぼちゃの煮物×高カカオチョコレート(画像右)>
かぼちゃの煮物に刻んだチョコレートを振りかけるだけ。「かぼちゃを小豆と一緒に煮る、かぼちゃのいとこ煮に似た風味でおいしいです」(椎名先生)。
「カカオ90%以上含有のチョコレートは、刻んで料理に入れるとおいしく摂取できます。刻み方はお好みでかまいません。刻んだチョコレートをタッパーに入れて、冷蔵庫にストックしておけば、気軽に使えます。カレーの隠し味にもおすすめです」
高カカオチョコレートをはじめとする嗜好品を、無理なく、おいしく食べ続けることで、高血圧や糖尿病などの生活習慣病へとつながる在宅習慣病の予防を期待できます。
上手に生活にとり入れて、健康維持に役立てましょう。
文/寳田真由美