心を蝕む「うつ」。それはストレスだけでなく「"質的な栄養失調"が引き起こすこともある」と栄養学に精通する精神科医・藤川徳美さんは言います。そんな藤川さんの著書『うつ消しごはん』(方丈社)から、実際に行ったサプリメントを用いる栄養療法「メガビタミン療法」で回復した症例エピソードを抜粋してご紹介します。
※症例の血液検査が示す数値などについて......症例の中には、受診時の血液検査の数値が頻繁に登場します。栄養療法を実践するにあたり、タンパク質や鉄の充実度を測る指標にするためです。よく出てくる検査項目についてはエピソードの下で解説しています。
【症例】本を読んで受診した貧血+うつ病の女性、1年弱でほぼ完治
5年前からマクロビオテック(菜食療法)をつづけてきたという40代前半女性です。
マクロビを実践する以前から、貧血を指摘されていました。
3歳のお子さんの子育て中でしたが、平成29年8月に夫が海外赴任することが決まりました。
それに絡んで、義父母から頻回に電話がかかるようになり、一気に不安感が押し寄せ、イライラして子どもに当たるようになってしまいました。
感情が高ぶると涙が止まらなくなってしまうこともありました。
9月に入り、私の前著を読んで当院を受診。
血液検査はBUN16.7、Hgb8.6、フェリチン6という鉄不足が判明しました。
薬はジェイゾロフト25mg+ドグマチール50mg+メイラックス0.25mg+フェルム(鉄剤)を開始し、高タンパク/低糖質食+プロテインを指導しました。
また、サプリメントはNowアイアン+B50+C1000+E400のATPセットを標準量で開始しました。
翌10月にはすっかり落ち着いてきたということなので、メイラックスは中止し、プロテインをしっかり飲んで、高タンパク/低糖質食を継続してもらいました。
12月の血液検査では、BUN18・0、Hgb12.7、フェリチン43と改善してきましたので、この時点でドグマチールを中止。
しかし、平成30年3月には、落ち着いてはいるものの、ときどき不安が強まることがあるという訴えがあり、不安、抑うつに効果があるナイアシン100mg×3を開始しました。
平成30年5月の血液検査では、BUN15.6、Hgb12.2、フェリチン94と鉄の指標が著しく向上していました。
翌6月の受診時には、すっかり落ち着いた様子でした。
ジェイゾロフトを隔日服用に減らし、問題なければ中止するよう伝えました。
フェルムのみ継続しています。
マクロビや玄米菜食をしてきた女性は、最重度の鉄・タンパク不足の人が極めて多数だといえます。
貧血の改善には、まずタンパク質、そして鉄、ビタミンB6、葉酸、B12、ビタミンCなどが必要です。
この女性は本を読んで受診されたので、最初からプロテイン+ATPセットを継続していました。
それでも治るまでに1年近くを必要としました。
プロテインなし、メガビタミンなしの治療だとしたら、改善まで数年は要すると思います。
※症例の血液検査が示す数値などについて
「一般的な基準値」というのは、健康な人の多くの検査データをもとにして、統計学的に求められた数値のことで、95%の人が基準値の範囲に該当しているといわれています。なお、BUN(尿素窒素)とMCV(赤血球恒数)、およびフェリチンについては、当院独自の基準で判断しておりますので、「当院の目標値」として記しておきます。
・BUN(尿素窒素)......血液中の尿素に含まれる窒素成分のことです。高い場合は腎機能障害、基準値未満はタンパク質摂取不足です(重症の肝機能障害のときにも低くなります)。一般的な基準値8~20(mg/dl)、当院での目標値15~20(mg/dl)。
・RBC(赤血球数)......赤血球の数で、基準値未満は貧血が疑われます。一般的な基準値 男性:430~570(万個/μl)女性:380~500(万個/μl)。
・HGB(ヘモグロビン)......血液中の鉄の量で、基準値未満は貧血が疑われます。一般的な基準値 男性:13・0~16・6(g/dl)女性:11・4~14・6(g/dl)。
・MCV(平均赤血球容積)......赤血球の大きさで、基準値未満では鉄欠乏性貧血が疑われます(鉄欠乏性貧血=小球性貧血)。逆に大きすぎる場合(大球性貧血)には、ビタミンB12不足、葉酸不足が疑われます。一般的な基準値80~100(fl)、当院での目標値95~98(fl)。
・フェリチン......鉄分を貯蔵しているタンパク質の量です。一般的な基準値 男性:20~220(ng/ml)女性:10~85(ng/ml)、当院での目標値100(ng/ml)。
・メガビタミン療法......ビタミンやミネラル、プロテインなどのサプリメントを活用した栄養療法の考え方。
・ATP......アデノシン三リン酸。生体内のエネルギーを貯蔵したり、供給したりする、生きるための「エネルギー通貨」とも呼ばれる。「ATPセット」は、ATPをつくるためのサプリメントの組み合わせ。
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薬に頼らない栄養療法メソッドを全5章に渡って解説。著者が行う「メガビタミン療法」のサプリレシピも収録