「歯の状態」が全身の健康状態を左右する? そんな歯の重要性を説くのが、歯科医師のほりうちけいすけさん。そこで、著書『歯の寿命を延ばせば健康寿命も延びる』(ワニブックス)から、体の健康維持につながる「歯を大事にするための知恵」を連載形式でお届けします。
歯は再生しない臓器
歯は"乳歯"と"永久歯"に大別されます。
生後6カ月頃から生え始める乳歯は、お母さんのおなかの中にいるときから、すでに顎の骨の中で作られています。
そして、3歳半くらいで20本の乳歯が出揃います。
一方、6歳頃から生え始める永久歯は、生まれてから顎の骨の中で形成されはじめます。
個人差はありますが、すべての永久歯が出揃うのは標準的に12歳で、その数は親知らずを除けば28本です。
このように歯は、顎の骨の中で、それぞれに適した時期に1本ずつ作られるのですが、歯が生え始めると同時に、エナメル芽細胞と呼ばれるその歯を作った一種類の細胞が消滅してしまうのです。
ですから、いったん生えてしまうと、その歯を作れる細胞もなくなってしまいますので、二度とその歯を再生修復することはできなくなるのです。
最近、再生医療の発展が目覚ましいこともあり、患者さんから「歯は再生医療で作れないのですか?」と質問されることがあります。
確かに、歯の再生に力を入れている施設はあり、結構いいところまで進んでいるようです。
iPS細胞を用いた臓器再生では、比較的一様な組織(例えば骨・軟骨・角膜・心筋・皮膚等)に対しては、臨床応用段階まで進んでいます。
しかし、三次元構造を有する臓器ではまだ難しく、この分野では、肝臓と腎臓が少し先行しているようです。
製作の難しさだけではなく、腫瘍化(組織を作る途中・あるいは作ったあとに、癌化すること)のリスクをどの程度回避できるかをも考慮する必要があることから、iPS細胞を用いた歯の再生には、まだまだ時間がかかりそうです。
将来的に、再生医療によって歯が作られるときが必ずやってくるのは間違いないですが、そのとき、利用者にとって問題になるのは"価格"かと思います。
あなたは、一本の歯を購入するのにどれくらいのお金を支払うでしょうか。
現在、抜歯したあとの処置として、インプラント治療というものがあります。
チタン製のスクリューを顎骨の中に埋め込んで、この上にセラミック等の人工の歯を固定するものです。
健康保険が効かないため、高額な治療方法となり、材質の違いや骨の状態等の難易度によっても異なりますが、1本につき、30~60万円くらいが相場です。
この点から考えるとiPS細胞によって歯を作製・移植すると、その価格は1本につき、まったく想像がつかないのですが、最低でも100万円、場合により数百万円となっても不思議ではないでしょう。
また、いつの話になるのかは現段階ではまったく想像がつきません。
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