冷え性や生理不順、むくみに便秘...「自分の体質だから」とあきらめていませんか? その悩み、毎日の食事などを少し意識すれば解決するかもしれません。ヒントとなるのは中医学(中国伝統医学)のセルフケア。そこで、東洋と西洋の医学に精通した医学博士・関隆志さんの初著書『名医が教える 東洋食薬でゆったり健康法』(すばる舎)から、中医学をベースにした「不調を治す食事&運動の考え方」を連載形式でお届けします。
「ダイエット」は、やせる方法ではありません
ダイエットを試みたことのある人は多いでしょう。
「ダイエット」と聞くと、日本人の多くは、「やせる方法」だと思っているかもしれませんが、本来の英語のdietは「日常の飲食物」のことを指しています。
東洋医学からは少し外れますが、世界ではさまざまな公的機関から「ダイエット」の指針が公表されています。
たとえば「地中海式ダイエット」。
これは1950年代に、当時、世界一の長寿国であったギリシアの食生活を世界保健機構(WHO)が調査し、発表した食事法です。オリーブオイル、低脂肪の乳製品、魚介類などを多くとり、毎日1~2杯の適量のワインを飲むことなどが特徴で、日々の運動を欠かさないところも重要なポイントとして強調されています。
あるいはアメリカでは、1970年代に10大死因のうち6つがふだんの食生活と大きく関連していることがわかり、1977年に"米国の食事目標"として「マクガバン・レポート」を発表しています。
このレポートでは、炭水化物をたくさん食べることを勧めていました。
アメリカではその後も、いろいろな「ダイエット」の指針が公表されていて、中でも"ヒット作"となったのが、アメリカ国立心肺血液研究所が発表した「DASHダイエット」です。
これは本来は高血圧症予防のための食事指針で、野菜や果物を積極的にとり、赤身の肉や鶏肉、魚から動物性タンパク質をとることを推奨しています。
同時に主食は玄米や全粒粉のパンなど、精製されていない穀物を選ぶことなどが推奨されていました。
実際に血圧をとてもよく下げる効果があると科学的に立証されており、善玉コレステロールを増やし悪玉コレステロールを減らす作用や、心臓病のリスクを軽減させる作用もあるとされています。
さらに、アメリカでは国立衛生研究所から「TLCダイエット」という指針も発表されています。
この食事法では必要なカロリーを摂取するのですが、そのうちの飽和脂肪酸からとるカロリーや、コレステロール・脂肪の摂取量を減らす、という食事療法です。
6週間で悪玉コレステロールの数値を8~10%低下させられるとされ、体重の減量効果もあるため、こちらも人気が高い食事法となっています。
なお日本の場合は、「食事バランスガイド」(厚生労働省、農林水産省が共同で作成した食生活の指針)が公的な食事の指針になっています。
足りないものは補充し、過剰なものは適量まで減らす
これら公的な指針は、いずれも科学的に研究・検証されている信頼のおける食事法と言えるでしょう。
そして、じつはこれら多様な公的食事指針に共通するキーワードがあります。
それが「バランス」と「適量」です。
食生活を考える上では、食べものや飲みものに関する現状の"偏り"を把握し、足りないものは適量になるように補充し、過剰なものは適量になるように減らし、全体のバランスをとるよう心がけることが非常に重要なのです。
ここで紹介した世界の食事指針も、この「バランス」と「適量」の視点で、その時代時代の各国民に足りていないところや、過剰なところを調整して、食生活全体のバランスを調整する、という狙いで公表されています。
そのため、時代の変化とともに各国の人たちのライフスタイルが変わると、変化した食生活に合わせて、食事指針も新しいものが公表されていきます。
科学の発展による新しい知見も合わせて反映されていくため、よいとされる食生活の内容が、時代とともに少しずつ変わっていく、という現象がおこるのです。
例に挙げたアメリカの各食事指針は、その典型例です。
以前はコレステロールを減らすよう勧告していましたが、細胞やホルモンの原料となるコレステロールの重要性から、最新の栄養指針ではその勧告をとりやめました。
同様に、日本の食事指針も時代に合わせて少しずつ変わっています。
たとえばひと昔前には、「毎日30種類以上の食材を食べるように!」と言われていたことを覚えていないでしょうか?
いまでは、この推奨には確かな根拠がなかったことがわかり、まったく言われなくなっています。
このように、もっとも信頼性が高いとされる各国の食事指針でさえも、じつは時代の変化とともに少しずつ内容が変わっているのです。
ただし、その背景にある「健康な食事についての思想」はどれも同じです。
つまりは、「バランス」と「適量」です。
そして、長い伝統と臨床経験に基づいている中医学、さらにはその中医学の思想をベースとしている「食薬」も、「バランス」と「適量」を中心的な思想にしていることには変わりありません。
気・血・津の3要素(中医学の人の体を構成する要素)と、それにともなう寒熱、それぞれの循環不全や量の不足に着目して、すべてが適切となるようにバランスをとる、というのが中医学や食薬の根本思想です。
さらには個人の体質の差や、同じ人でもそのときの体調変化にまで配慮する「オーダーメイド」の視点も備えています。
最近では現代医学の手法による研究でも、中医学の治療法にさまざまな効果があることが証明されはじめています。
そうした取り組みはまだ初歩段階にあるため、中医学や食薬のすべてに医学的・科学的に高い信頼性があると言うことはまだできないのですが、長い時間の経過に耐えて生き残り、また各種の伝統医学の中でも特にロジカル(論理的)で理解しやすく、日常生活にとり入れやすいのが中医学であり、「食薬」です。
食事や食薬茶といった形で、日々の食生活に気軽にとり入れみてはいかがでしょうか?
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