食べなくても太っちゃう⁉ 米国内科学会の医学誌に発表された「残念な生活習慣」とは

「がん予防にいい食材は?」「食べてすぐ寝ると太る?」テレビやインターネットにあふれかえる情報、一体どれを信じればいいのかわからない・・・。そこで、ハーバード大学や米国国家機関などの統計データを基に、本当に効く健康法をまとめた『長生きの統計学』(川田浩志/文響社)から、正しい健康管理術を連載形式でお届け。クイズ形式なので、ちょっとした話のネタにも使えます。

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食べなくても太ってしまう生活習慣とは?


米国内科学会が発行する医学誌「アナルズ・オブ・インターナル・メディシン」に発表された研究によると、ダイエットのためにカロリー制限をしても○○時間が少ないと脂肪が減りにくくなる。○○に入るのは?

A.仕事
B.睡眠
C.入浴


答え:B ダイエットの効果は、睡眠時間により左右される

「食べてすぐに寝ると牛になる」ということわざは、広く知られていると思います。もともとは行儀の悪さを戒める意味が強かったようですが、現代では「牛になる=太る」ととらえられることも多いようです。

確かにたくさん食べてすぐ寝てばかりいては太ってしまいますが、ことダイエットに関しては、むしろ「寝ないほうが太る」という結果が出ています。

アメリカ内科学会が発行する医学雑誌「アナルズ・オブ・インターナル・メディシン」に、ダイエットと睡眠時間に関して興味深い研究結果が報告されています。

研究では、男性7名、女性3名の肥満者に、14日間のダイエットを2回実施しました。ダイエット方法は、食事のカロリーをマイルドに制限する方法で、それぞれがじっとしているときに自然に代謝されるカロリーのうちの90%のカロリー量を計算し、摂取するようにしました。最低限必要なカロリー量よりもさらに低いカロリーしか摂取しないので、必ず痩せるというわけです。

最初のダイエットは、全員の睡眠時間を5・5時間にしたうえで行われました。そしてそこから3カ月以上の間を置き、体重が元に戻ってから、今度は睡眠時間を8・5時間にして、同様のダイエットをしました。

その結果、同じ人間が同じダイエットをしても、睡眠時間が短いときのほうが脂肪が減りにくいことがわかったのです。

この研究では、一人ひとりの脂肪燃焼状況について調べるために、ダイエット期間の終わりに「呼吸商」という数値を算出しています。

「呼吸商」というと耳慣れない人も多いかもしれませんが、ダイエットに関連する大切な数値ですので、ここで簡単に解説しておきましょう。

「呼吸商」とは、一言でいうと体内で燃焼する糖質と脂質の割合を示す数値です。この数値が大きいほど糖質の燃焼比率が高く、小さいほど脂質の燃焼比率が高くなります。つまり同じエネルギーを代謝していても、呼吸商が小さい人ほど効率よく体脂肪を燃焼させることができるので、太りにくいといえるのです。

呼吸商の算出方法は、二酸化炭素排出量÷酸素消費量という式で表されます。

糖質は酸素を多く含むので、燃焼する際に必要な酸素量は少なくてすみます。このため、糖質を燃焼するほど分母となる酸素消費量は小さくなり、数式の割り算の解、すなわち「商」は大きくなります。

一方脂質は酸素が少ないので、燃焼する際にたくさんの酸素を必要とします。このため、脂質の燃焼量が増えるほど分母となる酸素消費量が大きくなるので「商」は小さくなるのです。

こうしたことから、呼吸商の数値をみれば、ある程度太りにくさがわかると考えられます。

呼吸商は、呼気に含まれる二酸化炭素の量と吸気に含まれる酸素の量を専用の機器を用いて測定するので、残念ながら自宅で調べることはできませんが、太りにくいとはどういうことなのかを理解するうえでは知っておくべき数値だといえるでしょう。

さて、そこで改めて冒頭の研究結果を見てみましょう。

ダイエット期間の終わりに測定された呼吸商を比較すると、5・5時間睡眠時でダイエットしたときのほうが、8・5時間睡眠時でダイエットをしたときよりも呼吸商が高くなっているという結果が出ました。つまり、睡眠時間が短いと糖質の燃焼比率が高まって、脂肪の燃焼比率が減少してしまうというわけです。

この研究から結論付けられたのは、睡眠時間が短いと脂肪が燃焼しにくい体になるという事実です。その具体的なメカニズムについてはまだ解明されておらず、今後の研究課題ではありますが、少なくとも、睡眠時間が人の代謝機能に大きな作用を及ぼすということだけは確かだといえそうです

アメリカからもうひとつ、睡眠と肥満に関するデータをご紹介しましょう。

コロンビア大学が約2万人を調査したところ、4時間以下の睡眠しかとらない人は、7時間以上という十分な睡眠をとっている人に比べ73%も肥満になりやすいという結果が出ました。ちなみに、睡眠時間が5時間だと50%、6時間だと23%の人が肥満になりやすいという数字も出ており、こちらも睡眠と肥満の関係がはっきりと表れたデータとなっています。

このような統計結果となったひとつの原因と考えられているのは、食欲に関するホルモンです。

スタンフォード大学やシカゴ大学など、複数の機関で行われた研究により、食欲にまつわる2つのホルモンが睡眠と密接に関わっていることがわかっています。

人は、満腹だと感じれば食欲が抑えられ、食べることを止めます。ではどの時点で満腹だと感じるかといえば、脂肪組織から作られるホルモン「レプチン」が、脳の満腹中枢を刺激し始めたときです。それとは逆に、胃から作られるホルモン「グレリン」は、分泌されることで食欲を増進させる働きがあります。

睡眠不足になったときには、食欲を抑えるレプチンが減少し、食欲を起こすグレリンが増加することが、実験で明らかになっています。さらに、シカゴ大学の研究によれば、グレリンが増加した場合、揚げ物などの高カロリーの食事を好む傾向が顕著に表れたというのです。

これらの研究から「人は寝不足になると、ホルモンにより食事の量が増え、しかも太りやすい食べ物を好むようになる」という結論が得られます。

こうしたすべての研究結果が、睡眠不足はダイエットの天敵であることを裏付けています。ダイエットに成功したいなら、きちんと寝ることが大切なのです。ただし、だからといって朝から晩まで寝てばかりいては、やはりダイエット効果が半減してしまいます。睡眠とともに適度な運動を心掛けることが、もっとも効果的に痩せることができる方法であるといえます。

【まとめ】効果的にダイエットをしたければ、睡眠時間をきちんと確保すること!

データはウソをつきません!『長生きの統計学』記事リストはこちら!

食べなくても太っちゃう⁉ 米国内科学会の医学誌に発表された「残念な生活習慣」とは 060-syoei-nagaikinotoukei.jpg確実なデータを基に、「食事」「生活習慣」「運動」「メンタル」の4分野から29の健康情報を紹介。情報の基となる大学や機関名も記載されています

 

川田浩志(かわた・ひろし)

1965年、神奈川県生まれ。東海大学医学部内科学系血液腫瘍内科教授、医学博士。米国サウスカロライナ医科大学内科ポストドクトラルフェローを経て、2015年4月より現職。最先端の血液内科診療に従事しながら、アンチエイジング医学の普及にも注力する。

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『長生きの統計学』

(川田浩志/文響社)

「それ、本当!?」というような科学的根拠のないさまざまな健康情報を耳にする昨今。そんな時代に信頼すべきは、エビデンスのある「データ」です。本書で示されているのは、ハーバード大学やウィーン医科大学といった世界の名だたる大学や、各国の国家機関などの統計データをまとめた「事実」のみ。健康のための統計本です。

※この記事は『長生きの統計学』(川田浩志/文響社)からの抜粋です。

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