現代人は、人生の半分の時間を「座っている」ことをご存知でしょうか?そして、この座る時間が「肩こり」や「腰痛」など体の不調につながっているとされています。そこで、約15万人の施術経験を持つカイロプラクティック健康科学士・木津直昭さんの著書『肩こり・腰痛が消えて仕事がはかどる 究極の座り方』(文響社)から、ダメな座り方が体に与える影響と負担を軽減させる座り方を連載形式でお届けします。
腰にいいはずの高級椅子で、腰を悪くする人が続出!
身体に不調を抱えて治療に訪れ、座り続ける生活に原因があるようです、ということをお伝えした患者さんから、椅子選びについて以下の質問を受けることがよくあります。
「会社の椅子が合わない気がするのですが......」
「自宅ではどんな椅子を使ったらいいでしょうか?」
また、座りセミナーの中でのアンケート結果でも70%以上の社員さんが「今使っている椅子が自分に合っていない」と感じている大企業もあります。
座り姿勢のリスクを軽減する、座り方を改善する、というと、まず椅子を変えてみよう、理想的な椅子を使ってみたい、と考える方は多いようです。(それも高級な椅子がいいはずという発想)
しかし、「どんな椅子を選ぶべきか」という質問に回答するのは非常に難しい。というより、「残念ながら、〝いい椅子"と一般論で語ることのできる椅子はありません」と回答するしかないのです。
というのも、その人にとっていい椅子、座り姿勢が原因となった症状の改善にふさわしい椅子がどんなものなのかは、一緒に使う机やパソコン、そして座り姿勢の実態など、さまざまな要素によって変わってきます。ある人にとっては「いい椅子」でも、別な人にとっては「最悪な椅子」であることも珍しくありません。
たとえば、ある会社では、社員に15万円以上もする高価な椅子を用意しています。この椅子は一般に「腰にいい」といわれ、欧米で大人気なだけでなく、日本でもIT業界やデザイン業界など、長時間座り続ける専門職の間では定評のある椅子です。
ところが、この椅子を使うようになってから、その会社の社員には腰の状態が悪くなり来院される方が増えたのです。原因は、腰にいいはずの高級椅子の大きさと形状でした。私も実際にこの椅子に座ってみてびっくりしたのですが、欧米人向けに作られたものであるせいか、座面の奥行きが非常に深い。これでは日本人、とくに小柄な女性の身体にはフィットするはずがありません。
身体に合わない椅子に無理な姿勢で座り続けた結果、腰にいいどころか、腰の調子を悪くしてしまう人が続出したというわけです。
「売れる椅子=身体への負担が少ない椅子」にあらず
人によって「いい椅子」が違う以上、すべての人にフィットする椅子を選ぶことは難しいものです。にもかかわらず、会社ではオフィスの景観などの理由から椅子が人によってまちまちというわけにもいきません。職場で自分に合った椅子を使える人が少ないことも、長時間の座り姿勢による悪影響をさらに増幅していると思います。
こうした現状をなんとかしたいと、実は以前、オリジナル椅子を開発しようとしたことがあります。良い座り姿勢がラクにでき、机との相性も良く、特にパソコンでの長時間作業に適した、いわば「究極の椅子」を作ろうと考えたのです。
理想的な椅子の形については長年研究していましたので、大手事務機メーカーに協力してもらい、椅子の専門家と定期的にミーティングを重ね、熱いディスカッションを続けました。
さらに、たくさんの椅子に座らせてもらって座面や背もたれへの体圧分析といった専門的な研究も行いました。そして、ようやく「究極の椅子」サンプルモデルができあがるところまではこぎつけたのです。
しかし、これを実際に商品として市場に送るには、一つの問題がありました。新しい椅子を開発・製造・販売するとなれば、当然ながらかなりの初期投資が必要になります。たとえば、椅子の型を作るだけでもかなりの資金がかかるわけです。そうなると、ある程度の売れ行きが望めるモデルでなければ商品化できません。
この点で、私の開発した「究極の椅子」には大きな難点がありました。買う側が椅子に対して持つ印象は、はじめの座り心地にかかっているといわれています。つまり、第一印象でほぼすべてが決まるのです。
座った瞬間に「気持ちいいな」「たしかに、座るのがラクかもしれない」と感じるのが売れる椅子なのです。逆にいえば、その一瞬でいい印象がないと、購入を見送ってしまうということです。そのため、椅子のメーカーははじめの座り心地に焦点を合わせた開発を行います。
一方、私の考えた「究極の椅子」はというと、どうしても第一印象が良くないのです。
なぜなら、私が考える良い椅子の条件とは「長時間のデスクワークで使っても身体にいい椅子」だからです。これは、本書で述べてきたことからすれば当然のことだとご理解いただけるでしょう。
私の作ろうとした椅子は、一時間、二時間、三時間......と長く使ってみてはじめて真価がわかるもので、「第一印象」ではその価値が伝わりにくい。つまり、売れにくい椅子だったのです。結果、その椅子は商品化には至りませんでした。
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