現代人は、人生の半分の時間を「座っている」ことをご存知でしょうか?そして、この座る時間が「肩こり」や「腰痛」など体の不調につながっているとされています。そこで、約15万人の施術経験を持つカイロプラクティック健康科学士・木津直昭さんの著書『肩こり・腰痛が消えて仕事がはかどる 究極の座り方』(文響社)から、ダメな座り方が体に与える影響と負担を軽減させる座り方を連載形式でお届けします。
身体にとっては、座っているよりも立っているほうがマシ
人間の身体が座り姿勢に向いていないことはデータでも裏付けられます。まずは下の数値を見てください。これは、姿勢による椎間板にかかる負担の変化を、直立しているときを100として数値化したものです。
●仰向けに寝る=25
●横向きに寝る=75
●直立=100
●立って前かがみ=150
●座る=140
●座って前かがみ=185
これを見て意外に思われるかもしれません。実は、立っているときよりも座っているときのほうが椎間板への負担は大きいのです。寝ているのに比べれば座っているほうが椎間板に負担が大きいのは感覚的に理解できるでしょうが、立ち姿勢と比べても座っているほうが負担は大きい。身体にとっては、座っているよりも立っているほうがマシ、ということです。
一般に、「立ち仕事」といえば身体的にハードな仕事の代名詞になっています。当然立っているよりは座っているほうがラクであり、身体への負担も少ないと思っていた方が多いでしょう。しかし椎間板への負担を計測し、数値化してみると、身体にとって本当につらい姿勢は座り姿勢であることが判明するのです。
また、ここで特に注目してほしいのは、座位で前傾している姿勢(座って前かがみの姿勢)とはまさしくパソコン作業をしているときの姿勢であり、しかも直立しているときの倍近い負担がかかっているということです。
なぜ、人体が座り姿勢を苦手にするのかは、ヒトの背骨の仕組みを力学的に見れば理解できます。ヒトの背骨は頸椎(7個)・胸椎(12個)・腰椎(5個)の合計24個からできています。このうち頸椎と腰椎が前へカーブし、胸椎は後ろにカーブして、前へのカーブと後ろへのカーブが12対12で拮抗しています。この三つのカーブこそ、重力に対抗する非常に優れたメカニズムです。
背骨がまっすぐである場合と、カーブがある場合では、その長軸(上から下)にかかる抵抗力はまったく違います。背骨の抵抗力は、以下の公式に当てはめます。
(背骨のカーブの数)の2乗+1=(背骨の抵抗力)
カーブが一つの場合の抵抗力は、1の2乗+1=2、カーブが二つの場合は、抵抗力が5、カーブが三つの場合は、10になるということです。頸椎・胸椎・腰椎に三つのカーブがあるおかげで、ヒトの背骨の抵抗率はねこ背の場合より約2倍となるのです。ねこ背などの姿勢の悪化により、背骨の各所にかかる負担も当然ながら急増するわけです。先ほど見たように座り姿勢が椎間板に最大の負担をかけるのも当然でしょう。
座り姿勢は、脳と筋肉にとっては「ラクな姿勢」だが......
こうした説明に対して「そうはいっても、自分は立っているよりは座っているほうがラクに感じるんだけど?」と疑問を感じる方もいらっしゃるでしょう。
たしかに、そう感じるのは事実だと思います。しかし、曲者なのは座り姿勢が「ラク」であるという感覚の正体です。座り姿勢が「ラク」だというのは、身体ではなく、脳と筋肉が「ラク」であるという意味だと私は考えています。
どういうことかというと、立ち姿勢では脳を使って筋肉や関節の角度を制御しなくてはバランスを崩してしまうのに対して、座り姿勢は脳を休めて無意識でいても姿勢を保つことができるということです。
だからこそ、立ったまま眠れる人はまれですが、座って眠ることは簡単なのです。脳をフル活用して筋肉に指令を出し姿勢を制御しなくてすむぶん、座り姿勢はたしかにある意味ではラクな姿勢だといえるでしょう。
では、なぜ座り姿勢は無意識でも維持することができるのか。それは、椎間板をはじめとする組織に身体の重みを載せて、安定させているからです。
安定させているといえば聞こえはいいですが、その実態は、その部分の組織を痛めつけ続けていることにほかならないことはすでに述べました。
この意味で、座り姿勢は立ち姿勢以上に身体にとって過酷な姿勢なわけです。脳と筋肉がラクをするぶん、椎間板、関節、内臓といった部位に苦労を押し付けているのが座り姿勢であるといってもいいでしょう。
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